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JPNIC役員による「2023年のインターネットキーワード」

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JPNICのメールマガジン「JPNIC News & Views」では、毎年1月の定期号の特集にて、インターネットの最先端で活躍しているJPNIC理事/監事が考えるその年のインターネットキーワードをお届けしています。今回は、「2023年のインターネットキーワード」としてお届けした内容をご紹介します。インターネットの重要性がますます認識される昨今において、インターネットとの関わりをお考えいただく上での参考になりますと幸いです。

  • 江崎 浩 (JPNIC理事長/東京大学大学院 情報理工学系研究科 教授)
  • 2023年のInternet Keyword:「The Global Infrastructure」
    GlobalizationとGlobalとの違いは、多様性の尊重にあるのではないだろうか。インターネットは、地球上で構成される”The”(唯一のinfrastructureであり、多様な技術と所有者/運用者が構築・運用するハードウェア資源の上に共通のWeb/IPを用いたインフラが形成され、その上に、多様なコミュニティー(メタバースやWeb3)が形成されている。Globalの意味を再確認し、2023年に日本でたくさん開催されるイベントに参画したい。
 
  • 曽根 秀昭 (JPNIC副理事長/東北大学 データシナジー創生機構 特任教授)
  • 2023年のInternet Keyword:「次世代・次々世代」
    インターネットに限らず世代交代と継続は大切ですが、インターネット は立ち上がりと普及が世界規模で急速だったので、当時のキーパーソンがある程度の年代に集中しているようです。いま、その年代の引退時期がピークに近づいてきているらしいので、JPNIC含め、インターネット関連のあらゆるところでそのことを考えなければと思う年です。
 
  • 野村 純一 (JPNIC副理事長/株式会社ゲンザイ)
  • 2023年のInternet Keyword:「広義のセキュリティ・リスク」
    インターネットへの信頼を揺るがす要因として、広い意味での「セキリティ・リスク」が挙げられると思います。インターネットは人間のあらゆる活動・行動に深く関係するインフラとなったため、善用のみならず悪用する事態が懸念されます。サーバやネットワークへの攻撃などに留まらず、国際政治や軍事利用の目的でインターネットを悪用して、意図的に他者を陥れたり欺くといった行為が懸念されます。これが常態化すると、インターネットは信頼できないといった見方・考え方が拡がることになるでしょう。そこで《インターネットの信頼性を確保する》観点から、こうした事態に適切に対応できるかが、すべての関係者に問われることになると思います。
 
  • 岩谷 理恵 (JPNIC理事/株式会社日本レジストリサービス 総務本部 本部長)
  • 2023年のInternet Keyword:「国際イベントの開催」
    新型コロナウイルスの拡散により、各種イベントが中止されていましたが、徐々にイベントも再開しつつあり、海外からの旅行者も多くなってきました。今年は日本でAPNIC ConferenceやInternet Governance Forum、IETF等の国際イベントが開催される予定です。各種イベントでの議論、交流がどのように行われるか、とても楽しみです。
 
  • 宇井 隆晴 (JPNIC理事/株式会社日本レジストリサービス 取締役 システム本部長)
  • 2023年のInternet Keyword:「フラグメント/スプリンターネット」
    インターネットは世界をひとつにつなぐもので、グローバルなネット社会の成長基盤となるものと、多くの人や組織が信じています。その一方で、インターネットを分断する動きもあります。

    従来、権力が対外接続を制限することで情報統制をするという動きはありましたが、ウクライナ紛争など最近の国際情勢における新たな動きとして、グローバルの側からある一部分を切り離すような、制裁的・攻撃的とも言える分断の動きが見られるようになりました。

    IGFをはじめ、多くのイベントが日本で開催される2023年、大きなテーマです。

 
  • 荻野 司 (JPNIC理事/(一社)重要生活機器連携セキュリティ協議会 代表理事)
  • 2023年のInternet Keyword:「マルチステークホルダーとインターネット」
    年末、年始の報道番組で、第二次世界大戦後の冷戦期でさえも米国とソ連は、対話できるホットラインを維持し、考え方の違いを乗り越える努力がなされていたことが取り上げられていました。一方、昨年、始まったロシアとウクライナの戦争では、安全保障上の戦略的な見地からインターネットを分断するような動きがありました。社会体制や思想・宗教の違いによる世界の分断を、インターネット=通信を戦略的な道具として利用するような動きは、今後も続いていくでしょう。インターネットが社会インフラになっている今日、安心・安全でかつ安定したインターネット基盤の維持・拡充が必要であり、(経済)安全保障上も重要な位置づけになっています。インターネットに関わる多くのステークホルダーの意見を遮断するのでなく、自由に言い合える、そして議論できる「場」が大切だと思います。
 
  • 金井 俊夫 (JPNIC理事/エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 執行役員 プラットフォームサービス本部クラウド&ネットワークサービス部長)
  • 2023年のInternet Keyword:「不確実性に対応する基盤」
    世界各地において地政学的リスクが高まり、経済的にもインフレが拡大するなど不確実性が高まってきています。このような社会において大事なことの一つは、「国民一人一人がさまざまな情報にアクセスでき、何が正しいかを自分自身で判断できる環境がある」ことだと思います。インターネットの自由度が悪化した国が増え、また悪意や意図を持ったフェイクニュースも巧妙さを増している状況ですが、民主主義や健全な社会の基礎となる「自由で公正、公平、中立なインターネット」の重要性がますます高まっていると感じます。
 
  • 後藤 滋樹 (JPNIC理事/早稲田大学 名誉教授)
  • 2023年のInternet Keyword:「没有什麼是完美的」
    このキーワードは西遊記の終盤にあります。天竺(西天)で釈迦如来から仏教の経典(真経)を受取った三蔵法師(唐僧)一行が唐に戻る途中で河に落ちます。真経の巻軸が濡れてしまい、河原の岩の上に広げて乾かします。それを巻き取るときに紙の一文字が岩に付いて剥がれます。それを見た唐僧は驚愕します。

    孫悟空が次のように言います。天上天下どこにも完璧(完美)なものはありません(没有)。あなたも私も完美ではありません。真経を唐に持ち帰れば、人々を善に向かわせ痛苦から救うことができます。ただし人々を完美にするものではありません。真経が完美でなくても良いのです。

    このキーワードは簡体字中国語の西遊記(児童向)から引用しました。麼の簡体字が日本の漢字に無いために繁体字に変えています。完美な引用ではありません。なお真経の現物は中国のどこにも残っていません。西安の大雁塔は真経を保存するための建物ですが、その中にも無いそうです。

 
  • 関谷 勇司 (JPNIC理事/東京大学 大学院 情報理工学系研究科 教授)
  • 2023年のInternet Keyword:「インフラの再認識」
    昨年は「インフラ」というものの役割を考えさせられる1年でした。新年を迎え、今年はさらにこの言葉の意味、そして役割がより重視されるべき状況を迎えるのではないかと思います。インフラは社会生活を支えるものであり、インフラとなったインターネットは誰が支配するものでもなくグローバルに通信環境を提供する、そんな理念を再度確認する必要があるのではないでしょうか。不自由なくインフラを使っている人々が。
 
  • 鶴 昭博 (JPNIC理事/株式会社JPIX)
  • 2023年のInternet Keyword:「双方向で重要性を増すブロードバンド」
    2023年1月末に、フレッツADSLサービスが一部エリアを除いてサービス提供終了となります。FTTH時代の到来が予測されていた中、ADSLにどこまで投資するべきかいろいろな議論がありましたが、ADSLサービス登場から始まった定額・常時接続アクセスによる新たなインターネット利用用途の広がりを考えると、その役割は大変大きかったのではないでしょうか。

    今後のIoTデバイス拡大や社会のデジタル化により、下りだけではなく上りデータのトランザクションも重要になってきます。さまざまなデバイスからクラウドやエッジクラウドに向けて、多種多様なデータがそれぞれの特性による通信形態、トラヒックフローでインターネット上を流れることになります。いよいよFTTHの本領発揮となるのではないでしょうか。

 
  • 中村 素典 (JPNIC理事/京都大学 情報環境機構 教授)
  • 2023年のInternet Keyword:「パスワードレス認証時代の到来」
    簡単に破られる脆弱なパスワードの使用、使いまわしパスワードの漏えい等によるアカウント乗っ取りへの対策として、多要素認証の必要性は広く認識されたものの、その導入方法は多岐にわたるため、企業等への導入においては今一つ決め手に欠ける状況が続いていた。次世代の多要素認証、特にパスワードレス認証の手段として、スマートフォンの急速な普及と機能高度化の流れにのってFIDOは有力な選択肢であるが、それでもパスワード認証からの完全な移行には時間がかかると思われていた。このような中、認証用デバイス間の同期機能を持ったパスキー(Passkeys)が登場し、Apple、Google、Microsoftも2022年にサポートを表明した。厳格な認証としてはまだ課題が残されているが、セキュリティの底上げという意味において急速に利用環境が変化する1年になるだろう。
 
  • 橋川 和利 (JPNIC理事/ケーブルテレビ徳島株式会社)
  • 2023年のInternet Keyword:「デジタルと人材育成」
    デジタルの力を活用して地方の活性化を図る方針が示され、具現化への取り組みが行われています。今や、リモートワークは働く一つの形となっていますが、地方でデジタル基盤を整備するには、ハード・ソフトの両面で人材の確保が重要であり、専門的な知識を身につけるだけでなく、人と交流できる環境を整えて人を育てていく必要があります。人材還流を促進することにより、デジタルによる豊かな暮らしができる環境ができていくことを期待します。
 
  • 長谷部 克幸 (JPNIC理事/日本電信電話株式会社 技術企画部門 担当部長)
  • 2023年のInternet Keyword:「日本開催」
    インターネットが日本で商用化されてから30年が経ちました。直近3年間の技術の進化と社会生活への浸透は、新型コロナウイルス感染症禍での社会生活の変化もあり、この20数年での進化と同じような進化が3年間で起こるなど、目覚ましいスピードで進化しています。この進化のスピードは今後も継続し、世の中のあらゆるものへ、その領域を広げ変化していき始めています。

    2023年はIETF Meeting(3月)、G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合(4月)、G7サミット(5月)、APNIC Conference(9月)、Internet Governance Forum(10月)と多くの重要な会議が日本で開催されます。レジリエントなデジタルインフラ・システムとしてのあるべき姿をこれらの会議を通じて、日本から世界に向けて発信する年になります。

    この機会にぜひともこれら会議に積極的に参加・注目し、一緒にインターネットのあるべき姿について考え、議論を行い、発信していきましょう。

 
  • 馬場 聡 (JPNIC理事/北海道総合通信網株式会社)
  • 2023年のInternet Keyword:「ネットワーク強靭化へ」
    政府が掲げる「デジタル田園都市国家構想」が本格化してくると考えています。有事やパンデミックが身近に感じるようになった昨今、有事の際の対策が重要不可欠になる。ネットワークの強靭化もその対策のひとつ。特に国内ではネットワークの末端になるここ北海道では、重要な課題。データセンタの分散化、地域IX、海底ケーブル整備によるインフラ強化、Beyond 5Gなどなど。ネットワークの強靭化により、地域社会の活性化が実現する第一歩になるのではないでしょうか。
 
  • 藤崎 智宏 (JPNIC理事/NTTコミュニケーションズ株式会社 情報セキュリティ部)
  • 2023年のInternet Keyword:「IPv6は普及推進から利用高度化へ」
    IPv6は、利用しようと思えば、日本中ほぼどこでも利用可能となりました。2022年に開催されたサッカーのワールドカップでも、IPv6によるインターネット配信による視聴が既に過半を超え、IPv6インフラがなければインターネットを利用した高精細な画像配信は実現できなかったと思われます。

    しかしながら、利用したい環境でIPv6が必ず利用できるか、IPv6の特質を活かした使い方がされているかという観点では、さらなる取り組みが必要です。2023年に日本で開催される数々の国際イベントを盛り上げな がら、IPv6の高度利用を進展させていきたいと考えています。

 
  • 穂坂 俊之 (JPNIC理事/株式会社QTnet 執行役員 経営戦略本部 経営企画部長)
  • 2023年のInternet Keyword:「変容と回帰」
    DX(デジタルトランスフォーメーション)の掛け声のもと、デジタル技術の社会への浸透は今後ますます進むことが期待されます。資本主義社会に身を置く我々は否応なく競争優位の確保のためこの流れに乗ることになりますが、一方では、デジタルの力を使って「変革」を果たした組織が「その次」に何を目指すのか、それぞれの組織の存在意義を原点回帰してもう一度考える時期が来ているのではないかと感じます。
 
  • 松崎 吉伸 (JPNIC理事/株式会社インターネットイニシアティブ)
  • 2023年のInternet Keyword:「グローバルコミュニティ」
    インターネットでは、分野や技術に応じてさまざまなコミュニティが多層的に形成されており、そうしたコミュニティが相互に影響しあっています。2023年は、グローバルなコミュニティの会議がいくつか日本で開催されることが予定されています。こうした機会にみなさんとともに積極的に参加し交流することで、さまざまな刺激と影響を受け、また他の参加者に影響を与えて、より良いインターネットを目指す契機となれば良いと考えています。
 
  • 青木 邦哲 (JPNIC監事/株式会社ASJ 代表取締役専務 最高執行責任者)
  • 2023年のInternet Keyword:「働き方改革の進化」
    働き方改革関連法は2019年4月1日に施行され、業種・職種・地域・企業規模問わずさまざまな企業が働き方改革に着手するようになりました。「長時間労働の是正」、「正規・非正規間の格差解消」、「多様で柔軟な働き方の実現」の3つの柱が意識されています。「働き方改革」における「多様な働き方」の例としては、テレワーク(リモートワーク)であり、ICT (情報通信技術)をはじめとしたITの活躍により大きく進化することになりました。2024年には医療業界・建設業界・物流業界などに労働時間の規制が予定されています。この規制により2023年の働き方改革のデジタル化は大きく進化し、新たな工夫された事例が紹介されてくると考えています。
 
  • 高宮 展樹 (JPNIC監事/ビッグローブ株式会社)
  • 2023年のInternet Keyword:「転換期」
    2000年前後のインターネット普及開始期を支えたダイヤルアップ接続が、いよいよサービス終了を迎える。利用者のトラフィック需要の高まりとともにADSL~光回線・モバイル接続と、主要なアクセス回線は変遷してきたものの、POSレジ・銀行ATMなど企業利用を中心にダイヤルアップ接続は四半世紀にわたって使われてきた。一方で、Starlink社は2022年に日本にて広く遍く衛星通信サービスを開始した。電話線が終わり衛星通信が個人で利用できる時代の到来である。まさにインターネットの転換期であり、これからの新たな可能性について考えていきたい。

 

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