ARIN 58で議論予定のIPアドレス・AS番号分配ポリシーに関する提案ご紹介
ip_team IPアドレス 他組織のイベント
2026年10月22日(木)から23日(金)の2日間、米国フロリダ州マイアミにおいて、ARIN 58ミーティングが開催されます。
ARIN (American Registry for Internet Numbers)は、北米とカリブ海周辺の一部地域を受け持つ地域インターネットレジストリ(RIR; Regional Internet Registry)の一つです。
APNIC (Asia Pacific Network Information Centre)地域と同様に、ARIN地域においても、IPアドレス・AS番号の分配ポリシーに関する議論は、メーリングリストのほか、ミーティングの場でも行われます。
一方で、各RIRのポリシー策定プロセス(PDP)は独自の手法を用いることがあります。ARINでは各ポリシー提案に対して「Policy Shepherds(ポリシーシェパード)」と呼ばれる担当をARIN AC(Advisory Council)から任命します。この担当者はポリシー提案者とともに提案のブラッシュアップに努め、提案の実装へ向けて主体的に導く役割を果たします。
また、APNICなどとは異なり、ARINではまず「Draft Policy」のステータスから始まり、提案内容の検討が行われます。ブラッシュアップが完了し、ACによる承認が得られた場合、次のステータス「Recommended Draft Policy」に進み、コミュニティによるコンセンサス確認の対象となります。
今回のARIN 58ミーティングでは、以下の9件の提案について議論が行われる予定です。提案内容などの詳細は、タイトルに張られたリンクから確認することができます。
Recommended Draft Policy(コンセンサス確認の対象となる提案):4件
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ARIN-2025-3: Change Section 9 Out Of Region Use Minimum Criteria(域外利用に必要なIPv4アドレスの最低利用基準の変更)
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ARIN-2025-7: Make Policy in 6.5.8.2 Match the Examples(IPv6アドレス分配基準と記載例の整合)
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ARIN-2025-8: Reserve 4.10 Space for In-Region Use(IPv6移行支援用IPv4アドレスの域内利用への限定)
Draft Policy(議論中の提案):5件
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ARIN-2026-1: Taking IP To Other Planets (TIPTOP)(地球外ネットワーク向けIPアドレス分配)
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ARIN-2026-3: NRPM Section 6.4.1 Retirement(IPv6アドレスの財産権に関する規定の廃止)
今回はこれらの提案のうち、特に注目したい3件をご紹介します。
ARIN-2025-3: Change Section 9 Out Of Region Use Minimum Criteria(域外利用に必要なIPv4アドレスの最低利用基準の変更)
ARIN 55から継続して議論されている提案です。
現在のARINのポリシーでは、IPv4アドレスをARIN地域外で利用するためには、少なくとも/22相当のIPv4アドレスをARIN地域内で利用している必要があります。このため、/23や/24などの小規模なIPv4アドレスしか保有していない組織は、ARIN地域外でのアドレス利用に制約を受けることになります。
本提案では、こうした小規模組織の不利を解消するため、域内で必要となるIPv4アドレスの最低利用基準を/22から/24へ引き下げることを求めています。
また、ARINの待機リストからの分配や、特殊用途向けのMicro-allocation、IPv6移行支援用に確保されたIPv4アドレスについては、域外利用を理由とした分配を認めないことも明確化しています。
小規模組織の不利を解消するという観点から賛成意見が見られた一方で、域外で利用するアドレスは本来その地域を管轄するRIRから取得すべきではないかといった意見も挙がっていました。
今回のARIN 58ではRecommended Draft Policyとしてコンセンサス確認の対象となる予定です。
このほかにもARIN-2025-8やARIN-2026-5が「管理地域外での利用」にフォーカスした提案となっています。地域で区分されたRIRにおいてその域外で利用されるIPアドレスをどう考えるのかが注目を集めているようです。IPアドレスの利用地域と分配元のRIRとの関係は、ネットワークのグローバル化が進む中で重要なテーマの一つです。今回の議論では、小規模組織への公平性と地域レジストリによるアドレス管理の考え方について、どのような判断が示されるのか注目したいと思います。
ARIN-2026-2: NRPM Section 6.5 Revision(IPv6アドレス分配基準の見直し)
IPv6アドレスの分配基準を大きく見直そうとする提案です。
現在のARINのIPv6ポリシーでは、アドレスの割り振りサイズを決定する際に、一定の計算式や利用率に基づく基準が用いられています。しかし、実際のIPv6ネットワーク設計では、経路集約や階層的なアドレス構成、将来のネットワーク拡張などを考慮してアドレス空間を確保する必要があり、従来の計算式による評価方法が実態に合っていないと提案者は指摘しています。
そこで本提案では、計算式や利用率を中心とした評価方法から、ネットワークの設計計画に基づく評価方法への変更を求めています。
具体的には、申請組織がネットワーク構成やアドレス設計、将来の拡張計画などを示し、それらに基づいて必要なIPv6アドレス空間を評価する仕組みを想定しています。
IPv6アドレスはIPv4アドレスと比較して膨大なアドレス空間を持つ一方、経路集約や将来の拡張性を考慮した分配が重要となります。そのため、単純な利用率だけではなく、ネットワーク設計に基づいて必要なサイズを評価するという考え方には一定の合理性があります。
一方で、将来のネットワーク計画をどのような基準で評価するのか、申請組織間で公平性を確保できるのかといった点も重要になると考えられます。
APNIC地域でもIPv6アドレスの最小割り振りサイズやニブル境界を考慮した分配など、IPv6アドレスの分配基準を巡る議論が続いています。各RIRで検討されている内容は異なりますが、IPv6アドレスの効率的な管理と実際のネットワーク運用とのバランスをどのように取るかという点では、共通する課題も見られます。
今回のARINでの議論が、今後の他RIRにおけるIPv6ポリシーの検討にも影響を与えるのか、注目したい提案です。
ARIN-2026-1: Taking IP To Other Planets (TIPTOP)(地球外ネットワーク向けIPアドレス分配)
最後に、これまでのIPアドレスポリシーとは少し異なる、新しい領域を対象とした提案をご紹介します。
近年、月面探査や深宇宙探査など、地球外でのネットワーク利用を想定した技術開発が進められています。こうした環境では、現在、複数のRIRから個別に分配されたIPアドレスが利用されています。しかし、今後、複数の宇宙機関が運用するネットワークの相互接続が進むと、経路情報が細分化され、ルーティングの拡張性に課題が生じる可能性があると提案者は指摘しています。
そこで本提案では、静止軌道より外側の宇宙空間で運用されるネットワークを「Extra-Terrestrial Network (ETN)」と定義し、地球外ネットワーク向けのIPv4アドレスおよびIPv6アドレスの分配基準を新設することを求めています。
具体的には、IPv4アドレスについては、地球外ネットワーク向けの専用プールまたは登録基準を設け、宇宙空間でネットワークを運用する必要性を示した政府機関、研究機関、民間事業者などを分配対象とします。また、通常のIPv4アドレス利用基準を適用しつつ、通信遅延が大きいノードなど、従来の方法では利用状況の確認が困難な環境については、例外を認めることも想定しています。
IPv6アドレスについては、地球外ネットワーク向けの最小分配サイズを/48とし、天体ごとの階層的なサブネット構成に必要なサイズを分配できるようにすることを提案しています。さらに、将来的な月面や惑星上のネットワーク拡張に対応するため、スパースアロケーションを採用することも盛り込まれています。
また、IPv4・IPv6のいずれについても、月、火星、地球と月のラグランジュ点などの領域ごとに、可能な限り連続したアドレスブロックを分配することで、経路集約を容易にすることを目指しています。ただし、経路集約への参加は任意とされ、必要に応じて、より細分化した経路広告を行うことも認めるとしています。
一方、ARIN事務局は本提案について、現時点では提案内容のまま実装することはできないと評価しています。地球外ネットワーク向けの専用アドレス空間を確保するためには、IETFによる必要性の判断やIANAによるアドレス空間の分配、他のRIRとの調整が必要になると指摘しています。加えて、ARINが地球外ネットワーク向けのレジストリ業務を担うことが、ARINの役割に適合するかについても判断が必要としています。
このように本提案は、単に宇宙空間で利用するIPアドレスの分配基準を定めるだけでなく、既存のRIRによる地域単位のアドレス管理体系に、地球外ネットワークをどのように位置付けるのかという課題も含んでいます。
現時点ではDraft Policyとして議論が続いている段階ですが、将来的な宇宙通信ネットワークの発展を見据えた興味深い提案であり、今後の議論に注目したいと思います。
本提案についてはJPOPM50の「インターネット番号資源ホットトピックス」でも取り上げていますのでこちらの資料もぜひご参照ください。
おわりに
以上、ARIN 58で議論されるポリシー提案の中から、注目する3件をご紹介しました。
今回のARIN 58では、IPv4アドレスの域外利用条件の見直しやIPv6アドレス分配基準の変更といった、既存の分配制度に関する議論に加え、地球外ネットワークを対象とした新しい提案も取り上げられます。
また、Recommended Draft Policyとなっている4件については、今回の議論を経てコンセンサスが得られた場合、Last Callなどの次の手続きへ進む可能性があります。
ARINのポリシーメーリングリストには、オンライン上での議論やARIN ACによる検討の内容がアーカイブされています。また、ミーティング当日の資料や発言録などもARINのWebページで公開されますので、興味のある方はぜひご覧ください。
ARINなど他のRIRでの提案が、その後APNICでも提案されることもあり、JPNICでは各RIRの動向に注目しています。今後もブログなどを通して皆様に情報共有していきますので、ぜひご覧ください。

