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ISOCによるCollaborative Governance Project始動

投稿者 dom_gov_team on 2018年2月16日

2009年から2017年まで米国商務省次官補(情報通信担当)であり商務省電気情報通信局(NTIA)の長官であった、Larry Strickling氏が政権交代のため退官後、本稿で説明するCollaborative Governance ProjectのExecutive Directorとなりました[1]。氏はNTIA在籍時代に、2016年に完了したIANA監督権限の米国政府から民間への移管(以下、IANA監督権限移管)[2]を率いたことで知られているかと思います。

概要

2018年2月8日にInternet Society (ISOC)から発表された[3]Collaborative Governance Projectとは、日本語に無理やり訳してみると「協同ガバナンスプロジェクト」とでもなるでしょうか、ISOCによるマルチステークホルダーによるガバナンスをインターネット以外の課題にも適用できるようにするプロジェクトです[4](以下、「本プロジェクト」とします)。

グローバルなインターネットコミュニティによるIANA監督権限移管が成功した一方で、旧来の立法・規制プロセス、特に国際的な多国間組織による差し迫った公共政策課題の解決が難航していることを挙げ、増加する国境をまたぐインターネットの課題の挑戦および対立が従来のプロセスを通じての課題解決の能力を削いでおり、ISOCがグローバルに協同プロセスの利用を顕著に拡張できないか探る機会だとしています。本プロジェクトは、次の三つの重点的な活動から着手するとしています。

  • 問題解決目的での議論のためのステークホルダーの招集、会議開催
  • 効果的な議論のためのステークホルダーのトレーニング
  • 協同的ガバナンスの取り組みに関する学術研究および著作物の形成および奨励

本プロジェクトの中心的な目標は、協同的ガバナンスにおける全世界的な参加を確保することであり、ステークホルダーの参加が十分でない地域やグループを含めることが重要であるとしています。そのためには、十分に資金提供がなされている関係者および資金提供が十分でない関係者間の不均衡に取り組む必要があり、次のような方策が必要としています。

  • 全世界的にトレーニングを提供し、新規または経験の少ない参加者が効果的な支持者になってもらう。
  • 開発途上国の関係者を勧誘し議論におけるこれらの人々の関与を高める。
  • 途上国からの参加者に対し、会議旅費および参加者のトレーニングコストに関する資金支援を提供する必要がある。

ISOCは本プロジェクトの意義に賛同し、呼び水的に支援する役割として、本プロジェクトに1年分の資金提供を行う予定です(825,000USドル[5])。初年度は、全世界の大学および研究機関と戦略的な提携を行うべく注力することになっており、本構想が実現・発展でき、全世界の関係者を巻き込むことができるかどうかを見極めた上で、2年目以降を継続するかどうかの判断をすることになると見込まれます。

原則

本プロジェクトの綱領では、グローバルな知識の獲得、問題解決および規範の策定のために協同的ガバナンスプロセスの利用を拡大することが使命であり、協同的議論を喚起するため、本プロジェクトのプロセスは以下に基づくとしています。

  • ステークホルダー主導
  • 開かれたプロセス
  • 透明性
  • コンセンサスベース

さらには次の点もうたわれています。

  • ボトムアップでのマルチステークホルダーによる協力の精神により、本プロジェクトは常設の諮問委員会は設けず、すべての関心を持つ当事者がプロジェクトのアドバイザーとして関与するための方策を探る
  • 地理的多様性およびさまざまな範囲(市民社会、ビジネス、学術、技術専門家、企業)にわたるステークホルダーの関心を代表するよう最大限努力する

本プロジェクトは、既存のマルチステークホルダー組織(ICANN等)/活動(IGFIETF等)とは競合せず、むしろ強化することを目指す、としています。

想定される活動内容

議論のためのステークホルダー招集・会議開催

実現可能なものであること(例:ビジネスプロセスまたはベストプラクティス)、各国法や国際条約を提案するための議論のための招集は対象外、そして時機にかなったものであること、などとしています。

トレーニング

協同プロセスにおいて効果的な参加者になるためのトレーニングの提供には、次の二つの重要な機能があるとしています。

  • トレーニングを受けた関係者が協同的なステークホルダーを集めて行う、議論の効率化およびその結果、コンセンサスによる成果の獲得
  • 全世界でトレーニングを提供することによる、各地域におけるマルチステークホルダーによる議論を開催するための、スキルと自信を持った中核的な関係者の養成の促進

トレーニングは協同的なもので、マルチステークホルダーからなるメンバーをどのように集めて会議を開催し、参加を促すかに焦点を当てた、実践的なものとなります。範囲はグループでの教室を使ったコースから、個人がオンラインで学べるものまでにわたります。なお、全世界での既存のトレーニング(Asia Pacific Internet Governance Academy (APIGA)など)を尊重し重複しないようにする、としています。

学術研究

全世界で、協同的ガバナンスアプローチに特化した大量の思索および研究が、さまざまな研究機関でなされているため、協同的ガバナンス分野の学術専門家のネットワークを構築すべく、および今後数年間にわたり資金提供される可能性のある学術研究の課題を策定するため、本プロジェクトに取り組む、としています。

おわりに

本プロジェクトが成功するかどうかは、課題を定義して関係者と密接に協力できるかにかかっており、簡単ではないが努力すれば可能な範囲内だとISOCでは見ています。重要な政策課題においてコンセンサスに至るには、関心を持つボランティアによる多くの作業、多くの熱意、および必要性・緊急性により、妥協点を探るための参加者の強い意志が要求されます。とはいえ、専門家によるファシリテーションや準備、および議論する課題の注意深い取捨選択により、プロジェクトが堅固で前向きな成果を出すことができ、全世界に協同的でマルチステークホルダーアプローチの活用に関する能力を生み出すことができるとISOCでは考えられているようです。

筆者の感想としては、本プロジェクトがインターネットの枠を超えた、例外的で野心的なプロジェクトであるという印象があります。1年間でプロジェクトが全世界的に軌道に乗るためには、数多くの関係者を巻き込み、会議の開催、トレーニングの実施、成果物(主に書き物)の作成などを、非常に短期間で行う必要があると思います。2年目以降の活動を持続できるか、といったことにも関心があります。本プロジェクトが、1年後どのような成果を出せ、今後継続するのかを注視したいと思います。

本プロジェクトにご興味のある方は、2018年3月に公開遠隔会議が以下の通り開催されますので、参加されてみてはいかがでしょうか。


[2] IANA機能の監督権限の移管について https://www.nic.ad.jp/ja/governance/iana.html

[3] The global Internet requires a global, collaborative approach to Internet Governance https://www.internetsociety.org/blog/2018/02/collaborative-governance-initiative

[4] The Collaborative Governance Project -- A Multistakeholder Initiative of the Internet Society https://cdn.prod.internetsociety.org/wp-content/uploads/2018/02/Collaborative-Governance-Project_20180208.pdf

[5] Resolution 2017-58: Approve funding for the Multistakeholder Project
https://www.internetsociety.org/board-of-trustees/list-of-resolutions/2017/