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NANOG 68/ARIN 38ミーティングレポート(後編)

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NANOG 68/ARIN 38ミーティングレポート(前編)では、NANOG (The North American Network Operators’ Group)のミーティングであるNANOG 38についてご報告しました。後半となる今回は、NANOG 68に続いて開催された、北米地域を担当する地域インターネットレジストリ(RIR)であるARIN (American Registry for Internet Numbers)の、ARIN 38についてご報告します。

ミーティングの様子は、ARINのFacebookページいろいろな写真が掲載されています。併せてご参照ください。


全体概要

ARIN 38の参加者は、NANOG 68参加者の約10%強となる約130名でした。NANOGとARINでは参加者が入れ替わり、アドレスポリシー議論に興味のある人が引き続きARIN会議に残る、または新たに参加しているように見受けられました。

今回は、合計八つの提案が議論されました。APNIC 42カンファレンスでの提案が二つであったことと比較すると、議論が活発と言えます。事前に登録することで、ポリシー提案に対してオンラインでの支持表明も可能でした。また、カリブ海を中心にフェローの参加も促進しており、やる気のある新たな参加者も見受けられました。

ARIN地域では、IPv4アドレス移転時における必要性証明要件に関する議論が続いています。今回の会議は提案が多いですが、この議論が片付いてからも議論が活発であり続けるか、定かではありません。

また今回は、ARIN Advisory Council(ARIN AC)およびARIN理事の選挙が実施され、理事メンバーとしてBill Sandiford氏、Patrick Gilmore氏が就任しました。そして、これまで理事長を務めてきたVint Cerf氏がこの会議で理事の退任を発表し、副議長であるPaul Anderson氏が議長の座を引きつぐことになりました。

退任の挨拶を行ったVint Cerf氏、ARINのFacebookページより引用

引き続き、ARIN38での議論をご紹介します。


■WHOIS登録情報の正確性向上に向けた法執行機関による発表

連邦捜査局(FBI)、アメリカ麻薬取締局、カナダ警察といった法執行機関より、WHOISは従来想定された用途であるネットワークのトラブル解決のみではなく、公安のために利用されていることが事例を交えて紹介されました。WHOISがサイバー犯罪の取り締まりや消費者保護のために重要な役割を果たしているため、その登録情報の正確性を維持向上することが重要になってきていることを強調していました。

FBIとしては、WHOISの正確性向上のみですべての問題が解決するとは思っているわけではないが、登録者と実際の利用者が異なるケースや、特にARINやRIPE地域において、ローカルインターネットレジストリ (LIR)ではないISPへの再割り振りが比較的多く、情報が正確に維持されていないことについて問題視しているようです。ただし、趣旨としては、管轄地域・国を特定するために上流ISPの情報を特定することであり、エンドユーザーの情報がほしいわけではないとのことでした。

このWHOIS登録情報の正確性向上については、ICANN会議でもgTLDのWHOISのあり方を抜本的に見直す検討が始まっています。その流れの一環として、法執行機関の関係者がIPアドレスのWHOISについてRIRへ相談したところ、各RIR地域へ提案を提出するようアドバイスされたことから、今回の発表に至ったとのことです。同様の発表は、APNIC 42カンファレンスでも行われており、今後は2017年春に向けて、全RIR地域でポリシー提案として議論を進めていくとのことでした。

ちなみに日本の場合は、多くのISPがLIRであることから、上記のような問題は比較的少ない印象ですが、次回APNICカンファレンスで議論されることに備えて、日本国内でも議論が必要になってくると思います。

ARIN会議ではFBI、RIPE会議では欧州刑事警察機構(Europol)が定期的に参加しており、インターネットが経済社会活動の基盤となっている今日では、RIRのミーティングも、従来のような運用者、アドレス管理担当者のみではなく、こういった法執行機関など、より幅広い関係者も交えた議論が必要な局面を迎えているようです。

■アドレスポリシー動向

ARIN 38での議論の中心は、IPv4アドレス移転の要件緩和でした。ARIN地域は、投機目的でのアドレス移転を防止するため、移転ポリシー施行時からIPv4アドレス移転時の必要性証明を重視してきましたが、実態に合わないことから、この要件を緩和される方向で各種提案が議論されました。個々の提案については、JPNICブログ「ARIN 38がダラスで開催されます」で紹介していますので、そちらをご参照ください。

この他に、APNIC、RIPEでもAS番号の割り当てに関し、マルチホーム要件を撤廃するなど緩和する傾向があることから、ARIN事務局からのポリシー実装報告の中で、AS番号割り当てにおけるマルチホーム要件撤廃についての賛意が表明されました。これにより、ARIN地域でも今後AS番号の割り当て要件が緩和される方向に進むと思われますが、一方で、AS番号の割り当てが増えることでルーティングにどのような影響を及ぼすのか、注視していきたいところです。

ミーティングの様子

■ARIN AC選挙

ARIN AC (Advisory Council)選挙が行われ、今回は合計15名のACメンバーのうち6席が改選されました。ARIN ACは、ARIN地域におけるポリシー策定において、提案者へのポリシー提案の策定の助言、コンセンサス判断・理事会への勧告等、大きな役割を担っているため、立候補者も11名と多く、政策および戦略アナリストやUNIX/BSD/Linuxコミュニティの人等、多様な専門性を持った人がいました。ARIN AC選挙は、ARINミーティングの参加者のみではなく、NANOGミーティングの参加者にも投票権が与えられることから、ARIN CEOのJohn Curran氏が、NANOG 68のオープニングでもARIN AC選挙での投票を呼びかけていました。選挙結果は、ARINからのアナウンスで発表されています。

■その他

ARINコミュニティメンバーのボランティア活動として、ARINミーティングでIETFにおける議論の共有を行っており、今回は2016年7月開催のIETF 96について、包括的な報告がありました。IETFでの個別の議論や動向を追いかけて掘り下げていくための、水先案内としてとても参考になる発表でした。その他にも、参加者の情報交換を目的とした非公式会合であるIEPG Meetingでの、ルーティングやDNS、IPv6に関する議論について共有されました。詳細については、「IEPG Meeting – July 2016 @ IETF 96」も併せてご参照ください。


次回のARIN39ミーティングは、2017年4月2日~5日に、米国ルイジアナ州のニューオーリンズで開催される予定です。

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