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情報通信アーキテクチャの今とこれからを標準化活動の観点から考える(前編)

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2021年3月5日(金)にシンポジウム「情報通信アーキテクチャの今とこれから~標準化活動の観点から~」を開催し、標準化の視点から情報通信アーキテクチャの今とこれからを考える試みを実施しました。Zoom WebinarとYouTube Liveの同時配信によるフルオンラインでの開催となりましたが、当日は約120名の方にご参加いただきました。

本シンポジウムは二部構成となっており、前編となる本稿では、第一部【標準化活動における国際動向 ~注目すべきトピック~】を中心に当日の模様を紹介します。 

シンポジウムの様子。アーカイブはYouTubeでもご覧いただけます。

なぜ「情報通信アーキテクチャの今とこれから」か?

 昨今、2030年を見据えた現在のIPに代わる新しい情報通信アーキテクチャに関する国際的な議論や標準化に向けた動きが現れています。一方で日本国内では、こうした情報通信アーキテクチャに関してグローバルな視野から議論し、活動に関与するという人は年々少なくなっている印象があります。

 現在、情報通信アーキテクチャに関する国際的な標準化は、さまざまな標準化団体が関与しています。そうしたことから、今回当センターで初めての試みとして、情報通信アーキテクチャに関連する国際的な標準化の現場で活躍されている専門家の方々をお招きし、10年後を見据えた情報通信アーキテクチャのこれからについて、国際的な標準化活動の観点から議論するシンポジウムとしてみました。

 第一部ではIETF、ITU、IEEE、ETSI、3GPP、W3Cの6つの標準化団体について、まずは団体の概要、そして情報通信アーキテクチャを切り口として注目されているトピックスについて紹介いただき、それを踏まえて、第二部では具体的にパネルディスカッションで議論する仕立てとしました。

問題提起 ~開催挨拶から~

 ※各登壇者の発言に関する記述は当センターのメモによるものです。

 開催に先立ち、総務省 サイバーセキュリティ統括官室の佐々木将宣さんよりご挨拶をいただきました。まず、めざすべき政府のサイバーセキュリティ空間として掲げている5つの理念である「情報の自由な流通」「法の支配」「開放性」「自律性」「多様な主体の連携=マルチステークホルダーリズム」は、今の「自律・分散・協調」からなるインターネットのアーキテクチャと整合的との考えを示されました。その上で、インターネットの根幹にかかわる技術に関するプラットフォーマーの動きのような国際動向や、サイバーセキュリティを含めた情報通信行政について書かれた「Beyond 5G戦略」に触れながら、本シンポジウムで話される国際標準化活動がサイバー空間において主役であると指摘されました。最後に将来のサイバー空間がどのようになっていくのか、またどのようにあるべきなのか、そしてその実現のために何ができるかを皆で議論しながら、サイバーセキュリティの確保をめざしていきたいという旨が述べられました。また、JPNICの木村泰司から、今回のシンポジウムの開催趣旨について説明しました。

第一部: 標準化活動における国際動向 ~注目すべきトピック~

 第一部では、第二部のパネルディスカッションに繋がる前段として、各標準化団体の概要やホットトピックスについてご紹介いただきました。これを動画を交えてご紹介します。

IETF

 東京農工大学の根本貴弘さんより、IETFについてご紹介いただきました。

 このブログを読んでいる皆さんはご存知の方も多いかもしれませんが、IETFはインターネット技術に関わる仕様とその仕様策定プロセスに責任を持つ標準化団体です。誰でも参加可能な”Open”で、”Rough Consensus”と”Running Code”を重視したデファクト型の標準化団体です。年3回会合が行われていましたが、新型コロナウイルスの影響で1年前からオンライン開催に移行しました。参加者はアメリカからが最も多く、日本からは近年4~5番目になりますが、徐々にその参加は減少傾向にあるそうです。

 近年の注目トピックスとしては、IoT関連技術の標準化、HTTP/3・QuicなどのWeb関連技術の標準化、DoTやDoHなどのDNSプライバシーとDNSリゾルバ発見、選択の技術動向について紹介がありました。

ITU

 NTTネットワーク基盤技術研究所の後藤良則さんより、ITU・ITU-Tについてご紹介いただきました。

 ITUは電気通信に関する国連の専門家組織で、ITU-T(標準化)、ITU-R(無線)、ITU-D(開発)の3部門で構成されます。電気通信標準化部門であるITU-Tには11のStudy Group (SG)があり、ネットワークのコンセプトやアーキテクチャ策定はSG13が担当しています。SG13では近年、CloudやIoTなど新規テーマを積極的に発掘しており、現在はIMT-2020を中心に将来のNW技術について議論されているそうです。

 注目のトピックとして、IMT-2020のほかに、量子鍵配送ネットワークに関する議論、アフリカにおけるIX構築事例などについて解説がありました。また、SG13には誰でも参加できるFocus Group (FG)があり、今後はSGとFGでの議論のバランスを取りながら新しいテーマを発掘しつつ、安定感のある勧告化につなげて、産業育成に貢献したいということが述べられていました。

IEEE

 IEEE P3800 WG Chair/一般社団法人データ社会推進協議会の眞野浩さんより、IEEE SAにおける標準化についてご紹介いただきました。

 最初に、標準化は新しい市場を喚起しブルーオーシャンを作ることである、という標準化の意義について説明がありました。IEEEは学術団体ですが、標準化活動はIEEE-SAという部門でSASB (Standard Board)の指揮下で行われています。エネルギーから医療、通信まで幅広く、2000を越える標準化仕様の開発実績があり、現在は600以上の標準化仕様が開発中です。標準化活動に誰でも参加できますが、意思決定は投票によって行われます。また、個人標準化プログラムと法人標準化プログラムという二つの標準化手順について説明がありました。

 標準化の代表的な例としてIEEE802.11の事例や、注目トピックスとしてデータ流通(Data Trading System)についてもご紹介いただきました。

ETSI

 セコム株式会社の佐藤雅史さんより、ETSIを中心に電子署名関連に関する標準化活動についてご紹介いただきました。

 活動されている分野である「デジタル証拠とデータポータビリティ」についてご紹介いただいた後、JNSA Challenge PKI ProjectやECOM・日欧・ETSI 電子署名プラグテストなどの電子署名に関する実証実験の活動を通して、「使える標準規格をめざすこと」「相互運用性を確保すること」といった日本独自ではなく国際的な場での標準化の必要性について説明いただきました。

 後半では、欧州の電子通信に関する技術仕様を定める標準化団体であるETSIや、その技術委員会の一つで認証局や電子署名に関する仕様を策定するESIについてご紹介いただきました。ETSIは欧州からの参加組織が多いのですが、アメリカやアジア圏からも幅広く参加しており、特に電子署名の分野においては世界的に大きな影響力を持っているそうです。また、EU eIDAS規則をはじめとする電子署名を巡る規制や法制度の動向や、日本における技術標準としてISO規格についてもご紹介いただきました。

3GPP

 KDDI株式会社/3GPP TSG-SA Vice-Chairの中野裕介さんより、3GPPについてご紹介いただきました。

 3GPPは世界6地域の標準化組織が協力して運営するパートナーシッププロジェクトで、移動通信システムの仕様の検討・策定を行っています。700社以上が参加しており、他の団体と同様に、現在は選挙やVoting含めてすべてオンラインで開催されています。参加企業としては近年、Verticalと呼ばれる3GPPのシステムを活用してアプリケーション・サービスを利用する企業が増加しているそうで、国別ではもともと積極的に活動していた欧州に加え、中国や韓国からの参加も増加しているそうです。
 
 また、標準化最新状況として、ITU-Rの5G要件に対応したRel-16から、現在議論されている5Gのさらなる高度化や新たなユースケースを検討するRel-17についてご紹介いただきました。最後に、新型コロナウイルス、Virtical、End to Endの3つ観点から3GPPの課題と今後の展望について説明がありました。

W3C

 慶應義塾大学/W3Cの下農淳司さんより、W3Cについてご紹介いただきました。

 W3Cは400団体を超える会員による国際的会員コンソーシアムで、One WebかつWeb for Allという理念のもと、ウェブの標準化活動を行っています。現在38のWGがあり、標準化はセキュリティ・プライバシー・アクセシビリティー・国際化の4領域すべてによる水平レビューを行う点が特徴として挙げられます。WGだけではなく、会員以外が参加可能なインキュベーションを目的としたコミュニティグループや、産業・市場要求について検討するビジネスグループなども存在しており、新しいテーマの発掘も工夫しているそうです。

 注目テーマとして、Webブラウザでのプライバシーを議論している”fingerprinting”などについてご紹介いただきました。最後に、継続的な標準化活動に向けて、関わる人や興味を持つ人のボリュームを増やす活動の必要性が述べられました。


 以上簡単ですが、第一部の報告となります。それぞれの標準化団体で活躍されている登壇者の皆さんに解説していただき、各団体の概要から議論されている最新トピックスまで、標準化団体の現状を横断的に知ることができました。

 第一部では標準化活動を通じて情報通信アーキテクチャの「今」をお届けしましたが、第二部のパネルディスカッションではもう一歩踏み込み、それぞれの団体が抱える課題などについて登壇者の皆さんと考察しながら、情報通信アーキテクチャの「これから」について議論しました。その内容は後編として来週に公開する予定ですのでお楽しみに!!

 最後に、第一部の全体を通してご覧になりたい方は、以下をご覧ください。この第一部の講演資料はイベントWebサイトにも掲載しています。