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情報通信アーキテクチャの今とこれからを標準化活動の観点から考える(中編)

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2021年3月5日(金)にシンポジウム「情報通信アーキテクチャの今とこれから~標準化活動の観点から~」を開催いたしました。オンラインの開催で、約120名が参加されました。

本シンポジウムは二部構成になっています。この中編では、シンポジウム第二部のテーマについてご紹介します。第一部の模様は本ブログで先週(3/12)お届けしています。

IETFミーティングへの日本からの参加者の減少とアーキテクチャの議論

近年、日本からIETFミーティングに参加する人が減少しています。6年ほど前は100名近くで推移しており中国からの参加者とちょうど同じくらいでしたが、2015年横浜開催のIETF94以降は50名強にまで減りました。その状態が続いていた2018年頃、New IP が話題になりました。これはITU-TのワークショップIMT-2020/5Gで発表され、IETFにおけるリエゾンステートメントへの回答が話題になった、新しいネットワークアーキテクチャの提案です(下図)。

New IPの提案内容とIETF,IABの反応New IP の提案内容とIETFにおける反応

New IPには、地理的なアドレス形態(geographic address)、遅延に決定性のあるネットワークサービス(deterministic latency service)、AS間の監査(Inter-AS audit)といった技術提案が含まれていて、自律的なネットワークのつながりであるインターネットに集中的に管理のできる機能を持たせようとしていると受け止められる向きもありました。さまざまな議論になりましたが、ひるがえって、私たちはどうか、ということについて考えるきっかけにもなりました。つまり、日本においてインターネットに新たな概念を吹き込むような議論を行うことのできる土壌や力はあったでしょうか、ということです。

国際動向を把握した動き方はできているか

時を同じくして2018年頃、国内における海賊版サイトへの対策技術の一つとして、DNSを使ったブロッキングが挙げられていました。しかし国際的にはDNS over TLS(DoT)の実装が現れており、IETFではDNS queries over HTTPS(DoH)のRFC8484が出てきていました。DoTやDoHは、DNSの問い合わせ応答のデータを暗号化するだけでなく、どのリカーシブリゾルバー(DNSキャッシュサーバ)に問い合わせているのかを判別しにくくすることが視野に入った技術です(*1)。これが実装されると、DNSの問い合わせの内容はローカルネットワークのリカーシブリゾルバーで見ているだけでは分からなくなります。この動きは、公開情報であるにも関わらず国内ではあまり知られておらず、依然としてDNSを使ったブロッキングの是非が議論されていました。

(*1) スノーデン事件をきっかけとしてIETFでさまざまなプロトコルにプライバシー保護の機能を持たせる流れの一つに位置づけられます。

DoTとDoH - Encrypted DNS(Encrypted transport)
DoTとDoH – Encrypted DNS (Encrypted transport) (*2)

(*2) 図中ClientによるDNSの問い合わせは、ローカルネットワークにあるリカーシブリゾルバー(DNSキャッシュサーバ)ではなく、他のネットワークのサーバに対して行われ、しかも通信データが暗号化されていることになります。

かつて、国際的な製品やサービスに対する日本企業の製品やサービスの違いについて「ガラパゴス化」が指摘されたことがありました。元来、技術は独自に発展させるものであるとすると、その現象の良し悪しを問うことはできないとは思います。ただ、事業や施策の方向性が決まっていく場において関係者が国際的な動向を十分に把握していることの安心感を、クラウドサービスなどが発展したここ10年ほどに、私たちは感じてきているのではないでしょうか。

2030年

ITU-TやIETFにおいて、将来のネットワークを議論するテーマにつけられる「2030」。この数字は二つのことを想起させます。一つは、現在使われているものの延長線上、2,3年先の話ではないということです。現在使われているものは10年後には使われなくなっているかもしれないので、このテーマにおいては、技術や運用、利用に関する一切を一から考えなければなりません。もう一つは、10年後の社会で使われているものであるということです。10年後は、例えば年下のご同僚が、今の自分の歳を超えていて活躍されているかもしれません。身近な先達が引退されていて、私たちによって判断されなければならないことが増えているかもしれません。なにより、10年後の社会がどうなっていたらいいのかを考えていくということでもあります。

10年ビジョン10年ビジョン

上の図は筆者の想像図です。左側はこれまでの世界と題して国際的にトップクラスの技術者がさまざまな技術について議論し、実装され、淘汰されずに残った製品やサービスが日本で使えるようになるという場面です。日本ではそれを使って独自のサービスを作っている様子を示しています。日本における検討は、日本に来てからですのでタイミングとして遅いということになります。新たなサービスを生み出すことについて、技術力が劣っているのではなくスタートが遅いのです。右側は目指す世界です。国内で製品やサービスを検討する人が、標準化の場にもいて同時に技術に触れると共に、その人や組織が国際的に認知されている様子を示しています。

国際的な標準化の場で議論に参加するには、自分の技術だけを見ていれば良いわけではありません。技術を俯瞰して捉えていく「アーキテクチャ」思考が必要です。2030年を見据えた検討を行っていくには、与えられたものを使うだけでなく、私たち自身が国際的な視座を持って、主体的に作っていくことが必要なのではないでしょうか。

 

いかがでしたでしょうか。シンポジウム第二部では、ここまでの説明の後にパネリストによる議論が始まります。

パネルディスカッションでは、はじめから将来について議論をするのではなく、まず現状を知るために、国際的な標準化の場に出られている方々が日頃感じていることや、お考えになっていることを伺いました。最後に情報通信分野におけるアーキテクチャの視点を持ったり、その層を厚くしたり、といった「人」に注目した議論をしていきました。

後編では、パネルディスカッションの模様をお届けします。

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