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情報通信アーキテクチャの今とこれからを標準化活動の観点から考える(後編)

tech_team 

2021年3月5日(金)にシンポジウム「情報通信アーキテクチャの今とこれから~標準化活動の観点から~」を開催いたしました。オンラインの開催で、約120名が参加されました。

後編では、シンポジウム第二部に行われたパネルディスカッションの模様を抜粋してお届けします。第一部の模様は前編で、ディスカッションに先立つ説明については中編で、お届けしております。

 〇情報通信アーキテクチャの今とこれからを標準化活動の観点から考える(前編)
 https://blog.nic.ad.jp/2021/6074/

 〇情報通信アーキテクチャの今とこれからを標準化活動の観点から考える(中編)
 https://blog.nic.ad.jp/2021/6181/

パネルディスカッションは一問一答の形式で行われました。登壇下さったのは以下の方々です。

お名前(五十音順)とご所属 主なご参加団体
後藤 良則氏
(NTTネットワーク基盤技術研究所)
ITU-T
佐藤 雅史氏
(セコム株式会社 IS研究所)
ETSI
下農 淳司氏
(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任講師、W3C/Keio)
W3C
中野 裕介氏
(KDDI株式会社 技術企画本部 技術戦略部 標準戦略グループ グループリーダー、3GPP TSG-SA Vice-Chair)
3GPP
根本 貴弘氏
(東京農工大学)
IETF
眞野 浩氏
(IEEEP3800 WG Chair、一般社団法人データ社会推進協議会 代表理事 事務局長)
IEEE SA

コメント 佐々木 将宣氏
モデレーター 木村 泰司

※以下、ご登壇者個人の発言であり組織を代表するものではありません。また各登壇者の発言に関する記述は当センターのメモに基づくものです。

第二部:「いま起きていること 私たちの強み そして人」

最初は、標準化の場で取り組まれていることと、参加者の動向に関する質問です。

Q. 取り組まれている分野での課題や日本からの参加について。最近起きていることは?
中野 裕介氏:日本企業からの参加者は残念ながら減少。出張を伴わずに参加できるというメリットも。審議時間の減少によりスケジュールの延長が繰り返されている。後藤 良則氏:会議が日本時間の深夜帯に開催され負担に。中国勢の活発化。質も大きく向上。各団体に共通していることでは?下農 淳司氏:地理的ダイバーシティーをどのように確保していくか。急速なプライバシー重視の広がりの中で利便性などとの兼ね合いの着地点をどこに置くべきか。 眞野 浩氏:標準化のエクスパートの不足と高齢化。技術者中心のためマーケティング、戦略的提案が弱い。根本 貴弘氏:国際化文字列が扱える標準化に取り組んできたが、相互運用性に関する課題を感じる。検討を行える専門家がIETFに少ない。佐藤 雅史氏:規格や標準化動向の複雑化。専門的な視点と横断的な視点が必要。専門家が限定され固定化の傾向が。知識獲得の時間、他業務との両立が困難で、会社の理解や評価も重要。

▽会場でいただいた補足とご意見▽
  • 日本の場合は各企業から2名ほど研究所として来ているといった話が多く、マーケティングとかプロダクトベースがない
  • 中国企業からの参加者が増加しており、議論が質の向上している。
  • インドの存在感が増している。シャドウコミッティがある
  • 欧州も古い人もいるが新しい人も入ってきている。しかし、日本は固定化している
  • 全体像を理解するのに時間がかかるため、長い視点が必要。会社に所属しながら、会社の中で標準化が理解されるといい

別々の標準化団体の間で共通した傾向がみられるようです。
次は私たち自身(日本からの参加者)についてのお考えを伺いました。

Q. 国際的な標準化を意識した活動において私たちの強みや求められていることは?

中野 裕介氏:通信業界以外の企業の参加が増えており、多様なユースケースの議論が。通信という領域に限定せずに議論をすることが必須。この点が3GPPとしても強み。後藤 良則氏:”日本”のブランド価値は大きくワークアイテムの支持など日本のプレゼンスが期待される場面は多い。どう生かしていくか。下農 淳司氏:欧米とは違う文化・言語という意味で大きなマイノリティーとしての仕様へのインプット。 佐藤 雅史氏:実装から運用までをきちんときめ細かくケアしようとするところが強み。文化圏の異なるユースケースや実装・運用方法から見たときの意見を求められる。眞野 浩氏:求められるものではなく、なにをしたいかというWish base。根本 貴弘氏:IETFに参加する人同士のコミュニケーションがとりやすく、他の標準化団体で近い動きがあると声をかけてもらいやすい。英語圏と異なる言語を利用する日本人の知見というのは強み。

▽会場でいただいた補足とご意見▽
  • 技術力や動員力に対する日本の価値は相対的に落ちている現状がある。それが本質的には標準化において一番重要なところではあるのだが、結果的に日本に残ったのは「ブランド価値」であると思う。これを交渉力なり政治力に変えていく。そうパワーアップできるのかが鍵ではないか。
  • マイナー言語のうちでのメジャーな部類(ユーザー数も多い、昔から活動している人もいるなど)欧米中心ではない言語を仕様の中で使えるようにしている、その中で問題を抽出していくというところで、非常に恵まれた立場にいるのではないか。
  • 実装してビジネスまで回そうとする人が多く、そういう中での気づきが多く、ETSIのなかでも存在感を出せてきた。欧州のメンバーはどうしても欧州中心になるので、国際的に活動している彼らは、他の文化圏のユースケースなどの意見を求めている
  • 提案をどうするの?と問われた時に、日本の人はしりごもってしまう。自分がアカウンタビリティをもって動議をかけるところまでやっていかないと勝てないのかな、と思う。
  • 意外にいろんな国に嫌われていない。インドなどからも相談が来る、そういうところは日本のよさだろう。

最後は、将来に向けた私たちのありように関する質問です。標準化活動の場にいらっしゃる方々は何を思われているのでしょうか。

Q. 国際動向やアーキテクチャの視点を持つ層を厚くしていくには?

後藤 良則氏:プロダクトの開発は比較的意義を理解してもらいやすいが、アーキテクチャのような抽象的な検討の意義を理解してもらう必要がある。眞野 浩氏:戦略的思考、ロジカルシンキングなどからの教育、啓蒙へ。佐藤 雅史氏:いきなり全体像を理解することを目指すことはかなり難しい。1つの専門性をもって、横に関連した別の分野の活動を広げていく。また専門性を深めて、といったサイクル。 下農 淳司氏:幅広いコミュニティーへのアウトリーチ活動の展開。根本 貴弘氏:ベテランの方は若手を標準化活動の場に連れて行ける枠組みを。標準化活動に取り組む時間を業務時間内に確保できると良い。本務外の活動となっていると活動の継続が難しい。中野 裕介氏:マスだけでなくニッチな視点を併せ持ち、ニーズを満足するためにどうサービスをデザインしていくか、俯瞰で考える必要。異なる立場からこれらを追求することで品質の高いサービスの実現。

▽会場でいただいた補足とご意見▽
  • 戦術と戦略(大局)。より具体的なのが戦術であり、大局観を持つのが戦略である標準化で言えば、ソリューション検討が戦術で、アーキテクチャー検討が戦略に相当するもので大局観が必要である。研究の現場でいうとソリューション検討が中心になりがちになるので、大局観を持つことが重要だと思う。
  • 日本はルールではなく、空気でモノを決める あうんだし、忖度である。しかしそれでは世界的に通じない。ロジカルシンキングで整理して論理的に進められないと弱い。しかし、日本の教育の問題で、これからの世代にそういうことを言っていかないといけない。
  • 木を見て森を見ないのもダメだし、その反対もしかりで、両方できないといけない。背景にある考え方や全体像をうまく理解できて、それがアーキテクチャを考える思考につながっていくと思う。
  • すそ野を広げないと山自体が大きくならずにシュリンクしていく。全体を広げていく活動もしないとだめだと個人的には思っている。
  • 自分の専門領域だけではないところを見なくてはいけない。例えば、アプリとネットワークについて、今の時代は双方の歩み寄りが必要。

会場では、スライドの補足として多くのご意見をいただきました。経験と考察を積み重ねられてきた方々ならではの示唆に富むご指摘ではないでしょうか。

今後

JPNICではシンポジウムや個別に行っているヒアリングなどで伺ったご意見を受けて、今後の取り組みを検討して参ります。

その取り組みを行う際には、このブログ記事をお読みになられている方の助けが必要です。アイディアやご意見、ご感想などをお送りいただければ幸いです。

インターネット推進部 標準化とアーキテクチャ担当
arch-info at nic.ad.jp
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