APNIC 52でのIPアドレス・AS番号分配ポリシーに関する提案のご紹介
ip_team IPアドレス 他組織のイベント2021年9月13日(月)~16日(木)の日程で、APNIC 52カンファレンスが開催されます。
本来であれば、今回のAPNIC 52は2015年3月に開催されたAPNIC 39(福岡)以来の日本開催(札幌)を予定していましたが、新型コロナウイルス感染症の状況を考慮し引き続き、オンラインでの開催を選択することとなりました。APNICでは、前々回のAPNIC 50カンファレンスよりオンラインでの開催を行っています。会議への参加には会期開始までにWebサイトからの参加登録が必要となりますので、参加を希望される方はご登録をお忘れなくお願いします。
APNICでは、ポリシーSIG (Special Interest Group)において、IPアドレス・AS番号の分配ポリシー(以下、ポリシー)に関する議論を行っています。平時はポリシーSIGのメーリングリストで議論や意見交換を行っています。ポリシーの改定を行うための提案はメーリングリストで議論されますが、年2回開催されるAPNICカンファレンス期間中はオープンポリシーミーティングと呼ばれる時間でface to faceでの議論を行います。この議論を通じて、提案の改善、コンセンサスの形成へ向けたやりとりが行われます。
今回のオープンポリシーミーティングでは、以下に記載した、7点の提案に関して議論が予定されています。
- prop-135: Documentation(提出ドキュメントに関する記載の修正)
- prop-136: Registration Requirements(申請条件に関する記載の修正)
- prop-137: IPv6 assignment for associate members(アソシエイトメンバーへのIPv6割り当て)
- prop-138: Restricting AS-ID in ROA(ROA登録可能なAS番号の制限)
- prop-139: SOR not required(セカンドオピニオン(割り当て審議)の廃止)
- prop-140: Update End-Site Definition(エンドサイトに関する定義の明確化)
- prop-141: Change maximum delegation size of IPv4 address from 512 ( /23 ) to 768 (/23+/24) addresses(IPv4アドレスの最大割り振りサイズの/23から/23+/24への変更)
prop-135: Documentation(提出ドキュメントに関する記載の修正)
APNICでは現在、ポリシー文書における冗長な記載や用語の不統一に関して整理を行い、誰が見てもわかりやすいポリシーを目標に取り組みを行っています。この提案はその活動の一環となる提案です。
現行のポリシー文書では5.6項でアドレス空間取得に関する要件を、5.6.1項でその際に必要な文書を箇条書きで示していますが、内容的に同じような内容を含んでおり、まとめてしまったほうが簡潔にできると考えられました。そこで本提案ではこれらを文章として書き起こし、5.6項としてまとめています。内容的な変更は見受けられないため、問題点が発見されなければ本提案は可決されることが見込まれます。
prop-136: Registration Requirements(申請条件に関する記載の修正)
本提案も先のprop-135と同様にポリシー文書の見直しに関する提案です。
5.3項ではアドレス空間の申請を行う条件が記載されていますが、現行のポリシーではIPv4アドレス、IPv6アドレス、AS番号の3つに分けて記載が行われています。これらの文書は分けられているものの共通する部分が多く、統合が可能であると判断され、本提案が行われました。こちらも内容的な変更は見受けられないため、問題点が発見されないようであれば可決されることが見込まれます。
prop-137: IPv6 assignment for associate members(アソシエイトメンバーへのIPv6割り当て)
APNICでは保有するアドレス数に応じて会員のクラス分けが行われています。IPアドレスを保有している会員(Very small以上)はIPv6を無審査で入手することができます。しかし、IPアドレスを保有しない会員(associate member)はこれまで対象外とされてきました。今後はIPv6化促進のため、アソシエイトメンバーにもIPv6の割り当てを開放することで中小企業・アカデミック分野への普及ができると提案者は述べています。
APNIC事務局の影響予測としては事務局側の作業負荷増加に伴う、アソシエイトメンバーの料金見直しが挙げられています。また、提案者に対して提案文書内の「12ヵ月以内に広告する」とはどこまで厳密にするか、またPIアドレスとして割り当てる(PAとして割り振りはNG)としているのはなぜか、と質問しています。これらについては本会議内で触れられると思われます。
JPNICではAPNICとは異なる会員構造のため、アソシエイトメンバーに当たる組織が存在しません。本提案が導入された場合には対応方法に関して検討を行う予定となっています。
prop-138: Restricting AS-ID in ROA(ROA登録可能なAS番号の制限)
ROA登録において、誤登録を行うとネットワークにおいて大きな影響が出ることが予想されます。誤登録の可能性を少しでも減らすために、APNICのROA管理システムにおいて、プライベートAS、予約済みASの番号を入力できないようにシステム的に制限をかけようという提案です。
8月25日(水)にJPOPFによって行われたAPNIC 52に向けた事前の意見交換ミーティングでは本提案において、制限する具体的なAS番号について記載されていたことから、もし実装する場合には都度メンテナンスが必要になるのではないかといった懸念点が挙がっていました。議論の際にはどのような文言で実装するのか注目したいと思います。
prop-139: SOR not required(セカンドオピニオン(割り当て審議)の廃止)
本提案はprop-135,136に続き、ポリシー文書の整理・修正に伴う提案の一つになります。
現行のポリシーでは、各組織に設定されたアサインメントウインドウを越えるサイズの割り当てを行う際には、問題ないかをRIR/NIRと審議を行ってきましたが、APNICでは近年その件数がほとんどないとされています。これらの制度廃止は実務上影響のないものであり、ポリシー文書の簡潔化につながると提案者は述べています。
APNIC 52に向けた事前の意見交換ミーティングではループホールや趣旨に反する割り当てが起きる可能性を懸念しつつも、現行の状況を加味し、ISP等の裁量で動いても大きな問題がおきるとは考えにくい等、否定・肯定双方の意見が見られました。
JPNICでは月平均10件前後の割り当て審議に関する申請があるので、可決となるとAPNIC側以上に大きく変化が生じると考えられます。
prop-140: Update End-Site Definition(エンドサイトに関する定義の明確化)
こちらの提案もポリシー文書の整理・修正に伴う提案となっています。
現行のポリシー文書では「エンドサイト」という用語がIPv4を念頭に記載されており、「エンドユーザー」の定義がないことから用語の混同が生じているため、これらを定義し、修正を行うという提案です。
APNIC 52に向けた事前の意見交換ミーティングでは定義を改めることには異論はないものの、現在の提案箇所を修正するだけでは十分ではなく、よりポリシー文書全体の修正が必要なこと、”Customer“=顧客という言葉が使用されている点にも違和感を感じる(顧客のみでなくパートナーも本来含まねばならないのでは)といった指摘がありました。本番の議論を通しても同じようにより厳しい推敲が必要になるとの方向になる可能性が考えられます。
prop-141: Change maximum delegation size of IPv4 address from 512 ( /23 ) to 768 (/23+/24) addresses(IPv4アドレスの最大割り振りサイズの/23から/23+/24への変更)
現行のポリシーではIPv4アドレスの最大割り振りサイズは2019年に可決されたprop-127を基に/23(512アドレス)となっています。本提案はこれを/23+/24(768アドレス)に変更するものです。現在の割り振りのペースだとAPNICの在庫完全枯渇は2027年の8月~9月頃が見込まれています。提案者はこれを長すぎると判断し、今必要な組織にこそ分配を行うべきであると考えているようです。prop-127導入(2019年2月28日)以降にアドレスを得た組織には追加で/24を入手できるようにするとしています。また、今回の変更提案は在庫の減少に合わせて最大割り振りサイズの調整を行うことを提案内で記載しています。在庫が90万アドレスを切ってから25万6千アドレスの間は/23のみ、それ以下になれば/24とし、在庫減少後も多くの組織に配れるように計画しています。
prop-127で一度在庫が少なくなってきたために、割り振りサイズを縮小したにも関わらず、今必要な組織に配るべきだと再び枠を引き上げる方策に違和感を感じる方もいるかもしれませんが、APNIC 52に向けた事前の意見交換ミーティングでは利用者サイドからの要望であり、枯渇が近づいた際の対応策も練られていることから、尊重すべきところではないかとの意見も見られています。また、細かく/23+/24と分けることで経路数の増大につながる懸念はありますが、試算されている増加数は1万経路ほどで全体の1%程であり影響は少ないとのコメントもありました。
本提案は、日本での新規事業者やprop-127導入以降に割り振りを受けた指定事業者にも大きく影響を与える提案ですので、注目して動向を追いたいと思います。
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今回は提案7件と多く提案があり、議論が活発になることが予測されますが、関心のある提案はございましたでしょうか?気になるものはぜひAPNICのWebページも確認する、カンファレンスに実際に参加するなどして追ってみてください。カンファレンスでの議論結果に関してはJPNICのメールマガジン-JPNIC News & Views-でご報告を予定しています。
札幌の地で皆様と直にお会いし、お話しできないのは非常に残念ではございますが、APNICミーティングへの参加ハードルはオンラインになったことで下がってきたのではないかと思います。ぜひ少しでも関心をお持ちでしたら参加してみてください。