JPNIC Blog JPNIC

スプリンターネットに抗うインターネット

dom_gov_team 

2022年3月11日のJPNICブログで、「ウクライナ侵攻とインターネット」と題したエントリを投稿して、国際紛争に際したインターネット技術調整団体の動きを紹介しました。その後ウクライナとロシアをめぐっては引き続き緊張状態が続くところですが、今週、RIPE NCCとISOCから相次いで声明が発表されましたので、本稿で紹介します。

RIPE NCC: An Open Internet Remains the Goal

RIPE NCCは、2022年4月6日付け、事務局長(Managing Director)のHans-Petter Holen名で、RIPE Labsページに、 An Open Internet Remains the Goal(オープンなインターネットが依然目的である)という記事を公表しました。

冒頭でウクライナの壊滅的な状況に憂慮を示し、ここまでの対応を簡単に振り返った上で、あらためて、RIPEレジストリデータベースの完全性を維持し、ロシア内を含むすべてのメンバーを支援することが必要不可欠であるという考えを示しました。インターネットが現代社会のあらゆる側面に編み込まれ、ソーシャルメディアや電子メールだけでなく、市民活動、医療サービス、人道的行動など、普段必ずしもインターネットとの関連が明白でないものでも、その基盤となっていることを指摘し、特定の活動を切り離すための行動が、実は広域に影響を及ぼし、結果的に戦火に苦しむ人々にその影響が及ぶリスクを示しました。

この認識を基に、6点の見解を順を追って示しました。

  1. インターネットはコンセンサスによって動いている
    国々や民間企業はいつも他と競合状態にあり競争しているにも関わらず、単一のグローバルインターネットを共有して数十年にわたっている。新技術や新プロトコルに移ることは誰も妨げないが、それらへの移行はいつでも通信相手の同意に基づかないと発生しない。識別子のレジストリでさえ権威情報源を自認する新たなものが出現するが、それがインターネット上で置き換わるようなコンセンサスを得たことはない。理想を語ろうとするのではなく実質的な意味で、インターネットはコンセンサスで動いている。
  2. インターネットは信頼で動いている
    RIPEレジストリが信頼されるには、RIPE NCCが信頼されている必要があり、30年の業務運営の中、信頼を失いかねない局面でも逐次改良を重ね、堅牢なガバナンス機構、透明性を尊ぶ文化を築き上げてきた。信頼を保つという言葉は曖昧に聞こえかねないが、細心の注意と適切な運営を通じて維持されるものである。
  3. 全メンバーを支援する
    設立以来明確に意識してきたことだ。COVID-19や災害の影響、政治的な理由による口座凍結などによって会費納入が難しい状況にあたっては、期限延長などの対応をしてきた。現在はウクライナ、ロシア双方のメンバーに対して、会費納入の不備が契約停止とならないことを示している。
  4. レジストリはインターネットの変化に際して正確であり続けなければならない
    もしRIPE NCCが、権力なり支配力なりと呼べるものを持っているとすれば、それは代替機能を新たに作るよりもNCCを信頼したほうが良いというネットワーク事業者の間のコンセンサスによるものだ。近年重要インフラと見なすものを防護する目的で、RIPEレジストリを複製して国内レジストリを作るという動きが、ロシアなどで起こっている。これは、国内のインターネットを不安定にしようとする試みが国外で起こった場合に、それから国内インターネットを守るという考え方だが、単一でないレジストリでは識別子の一意性維持ができなくなる。どちらのレジストリを信頼するかが事業者に委ねられると、ネットワーク運用の崩壊やインターネットの分断に早急につながりかねない。
  5. 決定権は誰に
    「グローバルインターネットの中核管理機能は誰が管理するのか」はインターネットガバナンスにおける根本的な質問の一つである。マルチステークホルダーによるオープンで包摂的なプロセスがこれを管理する、というのが我々の考え方であり、黎明から今まで発展してきたインターネットでは、これが驚くほど機能してきた。これと異なる見方は、国連のような機関を通じて国家が直接管理するべきというものだが、このようなアプローチはインターネットを交渉材料の一つに矮小化し、技術的解決をめざすことよりも政治を優先する結果になりかねない。
  6. めざすもの
    RIPE NCCが最近公開した、5か年計画・ミッションステートメントに似た印象を受けた方もいるのではないか。この中で国家間の紛争が我々に大きな影響を及ぼし得ることを示したところ、それが現実のものになったのは快いことではないが、将来も起こり得る紛争を見据えたものである。ミッションステートメントは、我々がインターネットを作り動かす人々を助け、オープンで包摂的、協調的なインターネットのモデルの信頼に足る世話役であり、インターネットの安定性と進化に積極的に貢献し、メンバーやコミュニティからの信頼に応え、単一の安定した回復力を持つインターネットの利益を守ることを示している。

 

ISOC: Defend the Internet, Stop the Splinternet

インターネットソサエティ(ISOC)からは、Defend the Internet, Stop the Splinternet(インターネットを守り、スプリンターネットを止める)と題した声明が公表されました。105の国や経済域の会員と支部も含めたグローバルコミュニティとして、世界中の政府、企業、団体に呼び掛ける形を取り、2点の呼びかけと立場表明を含みます。

  1. インターネットの日常的な技術的ガバナンスは、政治問題化しない
    ドメイン名、IPアドレス、ルーティング、セキュリティシステムの管理と運用は政治中立であるべきである。
  2. 制裁はインターネットのアクセス、利用を妨害しない
    制裁が必要な時には、インターネット基盤のサービス継続を担保するように例外を設けるべきである。
  • 我々はオープンでグローバルなインターネットを守り、政府やサービス事業者が責任をもって対応にあたれるようにしなければならない。世界中の困難を解決するための人間性の最良の道具の一つを守ることは、特に危機にあたって、全員の責任である。

 

おわりに

JPNICは、先日ご案内したように、自らを見つめなおし、今まで掲げてきた活動理念を「JPNICの理念」として再設定したところです。この上で、インターネットがどういうものであるか、何を大切にするべきかに関して、検討する時間をたっぷり取りました。RIPE NCCとISOCのこれらのステートメントは、紛争状態という異常な社会状態を目の前にして、インターネットやその基盤運営がいかにあるべきか、彼らの熟考を示すものとして大変興味深いです。ここに挙げた抄訳から漏れている要素もありますので、ぜひ原典をご覧ください。

この記事を評価してください

この記事は役に立ちましたか?
記事の改善点等がございましたら自由にご記入ください。

このフォームをご利用した場合、ご連絡先の記入がないと、 回答を差し上げられません。 回答が必要な場合は、 お問い合わせ先 をご利用ください。