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制裁がインターネット基盤運営に及ぼす影響

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ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、こういった国際紛争がインターネット基盤運営に及ぼす影響を、JPNICブログでも記事として書き出しています。

ウクライナ侵攻とインターネット

スプリンターネットに抗うインターネット

また、国内のカンファレンスでこのような話題を取り扱うことも増えてきました。

国際大学GLOCOM六本木会議(6月7日)

JANOG50(7月14日)

これらにおいて、インターネット基盤運営はグローバルなインターネットコミュニティの自治に委ねられており、国の影響を基本的に受けない、という説明をしてきているのですが、本項では例外的に影響を受ける場合もある、というお話をしたいと思います。

まず最初に、RIPE NCCが2021年11月にRIPE Labsというブログページで公表した記事です。

How Sanctions Affect the RIPE NCC (制裁はどのようにRIPE NCCに影響するのか)

これはRIPE NCCの最高法務責任者であるAthina Fragkouliによる記事で、欧州連合における制裁実施がRIPE NCCによるIPアドレス管理の業務に与えていることが解説されています。Legal Contextのセクションを抄訳します。

  • RIPE NCCはオランダ法に基づく社団であり、オランダとEUによる規制下にある。EUのものを含め規制を実施するのはオランダ政府である。
  • 特定国への特定製品、役務の提供が禁じられているが、RIPE NCCのサービスには該当がない。
  • 一方で、特定の個人や法人に向けた、経済資源(economic resource)や資金を凍結すること、経済資源や資金を提供することの禁止には影響を受けることになった。
  • IPアドレスの登録が経済資源と認定されたからである。
  • これによって、制裁対象となっているごく限られた個人や法人に対して、新規のIPアドレス登録ができなくなった。

続いて Discussions with the Dutch Authorities ではオランダ政府当局との制裁規定適用に関する議論が紹介されており、すでに登録されているIPアドレスの登録削除までは不要と結論されていることが示されています。

文中でたびたび示されていますが、RIPE NCCはオランダ法による社団である以上、EUやオランダの法に従う必要が当然あり、それはNCCの事業運営上最重要課題であると位置づけています。その上で、遵法性を維持する上での細かな確認を当局と行うとともに、IPアドレスの提供という事業の目的が最大限維持されるように、配慮に余念がないことが分かります。

さらに、今週9月5日付け、RIPE NCCでグローバルエンゲージメントを統括するChris Buckridge名で、この続編ともいえる記事が公開されました。

Towards a Sanctions Solution Space  (制裁の対処策検討の場に向けて)

この記事では、制裁がインターネット基盤運営に与えるインパクトを分析、記録することを目的とするプロジェクトに、RIPE NCCが資金拠出していることが示されています。ICANNやRIRsの政策検討にも積極的に参加している女性政策研究者、Farzaneh Badieiがこのプロジェクトを率いているということで、今後2022年10月下旬にセルビア・ベルグラードで開催されるRIPE85ではBoFを開催、11月下旬にエチオピア・アディスアベバで開催されるIGF2022ではワークショップを開催して、さまざまなコミュニティの意見を聞いていく予定のようです。

RIPE NCCの意図としては、このような活動を通じて、制裁とインターネット基盤運営の関係を見つめなおし、その輪を拡げていくことで本件に関する理解を増進して、政府においても、的確な、インターネット基盤運営に不必要な悪影響を及ぼさない政策検討につながることを目指しているようです。これはまさに、さまざまなステークホルダーによって運営されるインターネットの、問題解決の進め方とも言えます。

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