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APrIGF 2022報告

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開催からかなり時間がたってしまいましたが、統合文書(Synthesis Document)が完成したこともあり、今年2022年9月に開催されたAPrIGFについて触れたいと思います。

2022年のアジア太平洋地域インターネットガバナンスフォーラム(APrIGF)は9月12日(月)から14日(水)の3日間シンガポールで開催されました。これまでは単独開催されてきましたが、今回ははじめてAPNIC 54APSIG (アジア太平洋地域のインターネットガバナンスの学校) 2022SGNOG (シンガポールネットワーク運用者グループ) 9 との併催となりました。もちろん、遠隔からも参加できるハイブリッド形式での開催でした。初日の前日、9月11日(日)はDay 0としてフェローと新規参加者向けの能力開発プログラムのみが開催されました。

1. 全体テーマ

  • 人々が中心:包摂的、持続可能な、信頼できるコミュニティに率いられたインターネットを思い描く

2. テーマトラックおよび関連セッション

セッションは2022年4月1日より5月16日まで公募され、16名の委員からなるプログラム委員会による選考の後決定されました(7月19日付で発表)。テーマトラックの一覧、および各テーマに関連すると筆者が推定した、開催セッションを列挙します。

包摂(inclusion)

持続可能性(Sustainability)

信頼(Trust)

3. 統合文書

APrIGFの特徴は、毎年全体テーマに沿った統合文書(Synthesis Document)を作成することです。専用のWebページより誰でもコメントできるようになっており、2022年の場合は、10月31日から11月8日までドラフト第1版に対してコメント募集が行われ、11月25日に最終版が公開されました。以下、2022年度の統合文書を要約してみました。

3.1. 包摂

包摂(インクルージョン)は、すべてのコミュニティにとってユビキタスなアクセスと公平性を促進するために取られる意図的な行動であり、多言語デジタル教育プログラムの利用可能性、デジタルリテラシーの格差是正といった側面も含まれます。技術コミュニティなど、ステークホルダーからのバランスのとれた参加が不可欠です。アジア太平洋地域は多様性に富み、地理的な条件も険しいため、完全なインクルージョンを実現するには困難を伴い、その解決に向けて継続的な対話が必要です。

3.1.1. 意義のあるアクセス

2016年に国連がインターネットへのアクセスを基本的人権と宣言したことで、デジタル接続性の重要性は高まっています。シンガポールのインターネット利用率は92%ですが、アフガニスタンのインターネット利用率は22.9%にとどまっています。政策、市場インセンティブ、そして疎外されたコミュニティのニーズに焦点を当てたローカルベースのアプローチが必要とされています。

3.1.2. 能力開発と新しい声

包摂は多面的なもので、インターネットガバナンスコミュニティの持続可能性に不可欠です。障がい者、LGBT +コミュニティなど、社会から疎外され、十分なサービスを受けていないコミュニティからの新しい声を取り入れる必要があります。言語的多様性の高いアジア太平洋地域では、インターネットガバナンス能力開発プログラムおよび教育モジュールが、対象コミュニティの現地言語に翻訳されることが特に重要です。 

3.1.3. デジタルリテラシー 

デジタルリテラシーは、単なる技術的な知識だけではありません。デジタルリテラシー運動は、各地域の代表を支援するエコシステムを構築するために、マルチステークホルダーでの協力を促進する必要があります。また、インターネットの無責任な利用がもたらす悪影響についての意識向上プログラムも必要です。

3.1.4. デジタル教育におけるレジリエンスとインクルーシビティ

弾力的で包括的なデジタル教育システムを、特に社会から疎外されたコミュニティーのために構築する必要があります。また、デジタルリテラシーについて他の学習者をサポートする教育者や図書館員に対する十分な資金とトレーニングが必要です。学校や家庭でデジタル教育を提供するために必要なインフラ(意味のある接続性、手頃な価格、ツール、デバイス)へのアクセスをどのように改善すればよいのか、およびデジタル教育には十分な設備があるのかということが問われます。

3.1.5. 障がい者(PWD)のためのアクセシビリティ

誰も取り残されないようにするため、真にインクルーシブなインターネットを実現するために、恵まれない人々、特にPWDの声をインターネットガバナンスの議論に取り入れる必要があります。 COVID-19パンデミックによる遠隔学習は、教育機関に影響を与え、学生、教員、管理者、政策立案者に課題をもたらしています。特にCOVID-19後のシナリオでは、高等教育における障害のある学生(SWD)のためのデジタル・アクセシビリティと接続性を強化する必要があります。

3.2. 信頼

信頼(trust)とは、セキュリティと人々の基本的な自由およびプライバシーの権利との間で良好なバランスを取ることを意味します。利用者が健全なデジタル環境から利益を得られるようにするために不可欠です。関係者は一丸となって、ユーザーの安全、個人情報、相互尊重を損なうことなく、インターネットの公正な利用を可能にする安全、信頼、信用のあるサイバースペースに向けて努力しなければなりません。これには、インターネットガバナンスの信頼を維持するための市民社会、その他のステークホルダーの役割と責任について検討することが含まれます。

3.2.1. 誤報・偽情報の影響

コミュニティや国境を越えて、特にソーシャルメディア上で偽情報が頻繁に発生しています。特に、公衆衛生や選挙などは大きな脅威に直面しています。偽情報と誤報に取り組むには、政府と市民社会の協力が必要です。アジアで見られる残念な傾向として、政府の規制が強化され、誤報に対する刑事罰が強化される傾向にあるようです。 これは、特に政治や選挙に関連するコンテンツで問題となる可能性があります。一般に、政治的内容を含むターゲット広告は、明確に識別可能で、情報広告として分類されるべきです。 選挙管理委員会/団体は、そのようなコンテンツを監視できる「デジタル選挙監視員」の配備に責任を持つべきです。

3.2.2. オンラインハラスメントの防止

オンラインハラスメントは、性別、年齢、民族などに関係なく、誰にでも起こりうることです。法的枠組みだけでは、この問題に取り組むことはできません。インターネット利用者が互いに尊重し合えるような意識改革と教育が必要です。デジタルプラットフォームは、被害者保護に重点を置いた社内ポリシーとシステムを改善すべきです。

3.2.3. デジタルにおける諸権利の保護と表現の自由

パンデミック時に実施された一時的な対策による、個人データガバナンスへの長期的な影響について評価する必要があります。政府やテクノロジー企業が新たな政策や行動を起こすと、より多くの市民が参加する一方で、デジタル空間へのアクセスやコントロール(監視を含む)が可能となっています。ここには、テクノロジー企業による人権デューディリジェンスの枠組みが必要です。最近の傾向として、ネット関連のプラットフォームが政府や巨大プラットフォーム運営者によって武器化され、市民社会の活動を監視し、混乱させる可能性があることが分かってきました。アジア全域における権威主義と監視の台頭を認識し、これらのユーザーと市民社会の回復力を高め、より強力なデータ保護の枠組みを実施することが必要です。未成年者やインターネット初心者の間では、利用者を欺くようなデザインの利用に対して脆弱性が高まっており、対応すべき重要なポイントです。技術的な解決策よりも、よい慣行の後押しや信頼できるデザイン、オープンデータ政策などの関連ガイドラインの定義に重点が置かれるべきです。これには、インターネット利用者を保護しながら安全性、プライバシー、完全性を提供するための国内および国際的な法的構造・制度が含まれます。

3.2.4. 重要分野へのサイバー攻撃の緩和 

病院や医療機関は、サイバー攻撃を防ぐために、従業員に対してサイバー衛生に関する教育を実施する必要があり、進化する脅威を阻止するために、継続的なサイバーセキュリティ保護に投資する必要があります。法律とは別に、各国政府は災害復旧センター(DRC)や、国別・産業別・セクター別のコンピュータ緊急対応チーム(CERT)を設立するための保護を進めるべきです。外交的措置については、アジア太平洋地域の国々の間、もしくは地域間の信頼醸成措置の強化が重要です。ヘルスケアシステムの運営者は、製品のセキュリティホールに対して責任を負わなければなりません。

3.3. 持続可能性

持続可能性(サステナビリティ)は、テクノロジーとその革新がもたらすグローバルな影響と成果を慎重に検討することに注意を促しています。インターネットが相互運用性を維持し、効果的かつ効率的なコミュニケーションのための機能を提供し続けることが重要ですが、政策立案者は、新しい規制や法案を策定する際に、インターネットの仕組みへの、潜在する予期せぬ影響を考慮する必要があります。また、回復力のあるインターネットを構築することも重要です。 これは、台風や地震などの自然災害時にインターネットへのアクセスを維持することなど、さまざまな側面を含んでいます。

3.3.1. エネルギー効率の良いエコ・インターネット

インターネットの利用が増加し続ける中、気候変動に関するアジェンダや行動計画において、インターネットネットワークとインフラの持続可能性を確実に考慮することが必要です。また、インターネットが環境に与える影響について、特に若者の間で一般的な認識を高め、イノベーションを推進することも重要です。アジアはサステナビリティとカーボンイニシアチブの面で遅れをとっていますが、例えば、台湾証券取引所(TWSE)が企業に対して環境・社会・ガバナンス(ESG)レポートやホワイトペーパーの公表を求める、 などの取り組みが開始されています。

3.3.2. 持続可能性と未来の働き方

テクノロジーの発展とともに、もうひとつの考慮すべき点は、従来とは異なる働き方への移行です。 テクノロジーは企業や個人に新しい労働モデルから利益を得る機会を提供しますが、同時に個人からコントロールを取り去るというリスクももたらします。デジタル労働プラットフォームがもたらすリスクを軽減するためには、よく練られた政策が必要です。 競争の促進、データ保護、アルゴリズム管理の透明性、労働者の権利保護、労働組合結成に焦点を当てた政策は、デジタル化に関連する潜在的な問題を考慮する際に検討されるべきです。

持続可能性の達成に向けた展望は、包括性と公平性の点で偏っていた経済・社会開発を修正する新たな機会を提供します。 従来の金融指向の投資収益率(ROI)パラダイムに代わって、効率的な資源配備と社会的有用性のメリットでセクターを評価するビジネスモデルが台頭しているのです。

4. 考察

セッションで議論され、統合文書にまとめられた内容には、包摂、特に途上国のネット接続が十分でないという点、および教育/能力開発、フェイクニュース、市民の権利保護、医療関係へのサイバー攻撃からの保護、環境、(ギグエコノミーなどの)働き方など多岐にわたります。おそらく、これらのほとんどは2023年10月に京都で開催されることになったIGF 2023でも議論することになるのではないかと思いますので、今から議論を追っておかれるとよいのではないかと思います。

来年2023年のAPrIGF開催地は決まっていませんが、APNIC 56が日本で開催されますので、今年と同様APNIC会議と併催となるのであれば、日本で開催される可能性があります。その場合、アジア太平洋地域のIGFとグローバルIGFのいずれもが日本で開催されることになります。これはまたとない機会であり、議論に参加するだけでなく日本が主導して議論を行うくらいになるとよいと思います。

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