APNIC 62参加報告 ~IPv6移行とインターネットの強靱性、コミュニティのこれから~
tech_team 他組織のイベント2026年9月4日~10日、インド・ムンバイでAPNIC 62カンファレンスが開催されました。うち4日~7日はワークショップや関連団体のミーティング、8日~10日はカンファレンスです。アジア太平洋地域のインターネットに関わる人々が集まり、ネットワーク運用の経験共有や、IPアドレス・AS番号に関する議論などが行われました。
ここでは、開催地と会場の様子に続き、会期中のプログラムから、各国・地域のインターネットレジストリの活動、IPv6への移行、重要サービスを支えるネットワークの耐障害性、そしてコミュニティの運営ルールをめぐる議論をご紹介します。
開催地インド・ムンバイ
今回の開催地であるインドは、南アジアに位置し、地域によって言語や宗教、食文化などが異なる、多様な文化を持つ国です。ご存知の方も多いと思いますが、IT産業でも広く知られ、インターネットの普及や、それを支える技術者コミュニティの活動という点でも注目される国の一つです。
その西海岸にあり、アラビア海に面するムンバイは、インドを代表する商業・金融都市です。映画産業の中心地としても知られる一方、市内には歴史を感じさせる建築物が残っています。
海沿いに立つインド門(Gateway of India)も、その一つです。大きなアーチを持つ門の前には多くの人が集まり、写真を撮る姿が見られました。その近くには、赤いドームと繊細な装飾が目を引く「タージ・マハル・パレス」があります。歴史ある建物と、その周囲を行き交う人々の姿から、ムンバイの街の賑わいが伝わってきます。
タージ・マハル・パレス。ムンバイを代表するホテル。赤いドームが印象的。
会場の雰囲気 ~セッションの合間にも広がる交流~
セッション会場では、大きなスクリーンに発表資料と英語の字幕が表示されます。発表を聞きながら文字でも内容を確認できる工夫は、さまざまな国・地域から参加者が集まる国際会議ならではのものです。
会場には質問用のマイクがあり、各セッションの最後では参加者が自由に質問をし、議論を行うことができます。APNICカンファレンスの最終日には、コミュニティ参加者が誰でも自由な意見を発言をすることができる、「オープンマイク」セッションもあります。いずれのプログラムでも、多くの参加者が発言のためにマイクに並んでいました。
会場での楽しみの一つが食事です。懇親会での食事コーナーには、色とりどりの野菜や肉、ソースなどがずらりと並び、調理スタッフがその場で料理を用意していました。セッションの合間に食事を取りながら、参加者同士が言葉を交わす場にもなっていました。
オープニングソーシャル(懇親会)では、布で覆われた高い天井が赤や紫の照明に彩られ、セッション会場とはまた違った華やかな雰囲気でした。立食のテーブルを囲んで多くの参加者が集まり、食事と会話を楽しんでいました。こうした交流の時間も、国や組織を越えて知り合い、今後の情報交換につながる関係を築く機会となっています。
なお、この会場は、このオープニングソーシャルのために設立されたとのこと。インドの人々のパワーを感じました。
NIR SIG ~各国・地域の取り組みを共有~
NIR(National Internet Registry)は、国・地域単位でIPアドレスやAS番号などのインターネット番号資源を管理する組織で、日本ではJPNICがその役割を担っています。NIR SIGは、各NIRが活動や課題を共有し、連携について議論する場です。
今回の活動報告では、番号資源の分配状況に加えて、IPv6の普及、経路情報の安全性を高めるRPKIの導入支援、技術者育成などが紹介されました。
例えばベトナムのVNNICからは、2030年に向けたIPv6-onlyへの移行に関する取り組みが紹介されました。政府機関やISP、モバイル事業者との連携に加え、IPv6-onlyをテーマとしたカンファレンスやワークショップなどを通じて、実際の導入を後押ししているとのことです。
中国のCNNICからは、ROAの発行や管理を支援するRPKIサービス基盤と、研修を組み合わせた普及活動が報告されました。台湾のTWNICからも、ROAの管理やROVの導入支援、IPv6に関する技術研修などが紹介されました。ROAは、あるアドレス範囲の経路をどのASが広告してよいかを示す署名付きの情報で、ROVは、その情報を用いて受信した経路の起点を検証する仕組みです。
インドのIRINNからは、IPv6の導入促進やNIXI Academyを通じた学習機会の提供などが紹介されました。また、韓国のKRNICからは、インターネットガバナンスに関する人材育成や、JPNIC・TWNICとの情報交換、会員向けの資源管理システムの刷新に向けた取り組みが報告されました。資源を分配するだけでなく、それを活用する技術者やコミュニティを支える活動が、各NIRに共通するテーマとなっていました。
JPNICからの情報発信@NIR SIG
JPNICもNIR SIGの「JPNIC Update」で、日本における番号資源やRPKIの状況、国内コミュニティとの連携、人材育成などについて報告しました。
活動紹介では、JPNIC技術セミナーやInternet Week Showcase in 静岡の開催、JANOGや地域NOGとの連携、次世代の技術者による会場ネットワーク構築への取り組み(NeGI NOC)などを取り上げました。また、2026年6月に第50回を迎えたJPNICオープンポリシーミーティング(JPOPM)についても紹介しました。
国際会議への参加支援も、こうした人材育成の一つです。今回のAPNIC 62には、JPNICの国際会議参加支援プログラムを通じて2名がフェローとして参加しました。国内での学びや活動を国際的な情報交換の場につなげる取り組みについても、各NIRと共有しました。
IPv6移行の次の課題は、「企業や中小ISPへの普及」
同じNIR SIGでは、APNICのTony Smithさんから、IPv6移行の現状と課題について発表がありました。発表時点のAPNICの測定では、IPv6を利用可能なユーザーの割合は世界全体で約43%、APNIC地域で約54%と紹介されました。
ただし、国・地域全体の割合が高くても、多くのネットワークで導入が進んでいるとは限りません。大規模なモバイル事業者などの導入が全体の数字を押し上げる一方で、企業や中小ISPにはIPv6への対応を始めていないネットワークが多く残ることが指摘されました。
移行の進め方としては、IPv4とIPv6を併用するデュアルスタックから、対応する端末にはIPv4アドレスを配らない「IPv6-Mostly」を経て、IPv6-onlyへと進む考え方が紹介されました。既存のIPv4環境との通信を支える変換技術も、今後の移行で重要な役割を担うとされています。
IPv6への移行には、それぞれの事業者が抱える費用や運用上の事情も関わります。そのため、NIRが地域の関係者をつなぎ、経験や情報の共有を支援することへの期待が示されました。普及率だけでなく、どのようなネットワークに支援が必要なのかを見ることも大切だと分かる発表でした。
国際接続が失われても、重要サービスを維持するには
「Internet Resilience for country in case Subsea Isolation for Essential Services」では、Sumon Ahmed Sabirさんが、2024年にバングラデシュで起きたインターネット遮断の経験を紹介しました。その経験を踏まえ、海底ケーブルの障害などで国際接続が長期間失われた場合に、国内の重要サービスをどう維持するかが論じられました。
発表で紹介されたのは、モバイル決済や店舗での支払い、プリペイド式の電気・ガス・水道メーターへのチャージなど、日常生活に直結するサービスへの影響です。国内のネットワーク設備や接続が残っていても、それだけではサービスを利用できない場合があることが示されました。
例えば、国内向けのアプリケーションであっても、海外のクラウドに置かれていたり、外部のJavaScriptやAPIを呼び出していたりすると、国際接続の喪失がサービス停止につながります。また、DNSによる名前解決ができないことで、国内にあるサーバーにもアクセスできなくなる問題が紹介されました。
備えとして挙げられたのは、外部のサービスに依存しない軽量版アプリケーションや国内のコピーを用意すること、ISP自身のDNSリゾルバーや国内のDNS基盤の可用性を確保すること、国内で時刻同期を継続できるようにすることなどです。重要なIoTサービスについて、通信経路を分けたり、代替の接続手段を備えたりする考え方も示されました。
回線がつながっているかだけでなく、DNS、時刻同期、アプリケーションの外部依存まで含めて確認する必要があります。インターネットが生活基盤に深く組み込まれているからこそ、接続を失った場合に何が止まるのかを、サービス全体で考える重要性を伝える発表でした。
Joint SIGs ~コミュニティを支える運営ルールの見直し~
Joint SIGs sessionでは、SIG Guidelinesの見直しが取り上げられました。SIGは特定のテーマについてコミュニティが情報共有や議論を行う場で、その運営や議長(Chair)・共同議長(Co-Chair)の役割などを定めているのがSIG Guidelinesです。
作業部会からは、議長・共同議長の任期制限、SIGの設立・解散の手続き、各SIGの目的や活動範囲を定めるCharterの位置付け、選挙や運営上の手続きなどを整理する改定案が説明されました。
任期については、全SIGを通算して議長・共同議長を最大4期までとし、連続2期の後には一定の休止期間を置く案が示されました。一方で、交代時に活動の継続性をどう保つかも論点となり、会場からは、複数の議長らが同時に交代しないよう時期をずらす考え方が示されました。
オンライン参加と立候補の機会も議論されました。普段はオンラインで積極的に活動していても、渡航費用や所属組織の支援の制約から現地参加が難しい人もいます。そうした事情がSIGのリーダーになる機会を狭めてよいのか、という問いが会場から出されました。
また、コミュニティが選んだ議長・共同議長を、APNIC理事会(EC)が解任できることの是非も論点となりました。作業部会からは、ECの権限は既存のガイドラインに含まれるものであり、今回の案では、事前通知や応答のための期間、理由の説明などの手続きを加える趣旨だと説明されました。
APNIC事務局による影響分析では、出席要件の表現の不統一や、任期後の休止期間が文面の解釈によって想定より長くなる可能性などが指摘されました。開かれた参加の機会を確保しながら、運営の継続性と手続きの明確さをどう両立するかを考えるセッションとなりました。
APNIC Open Policy Meeting(OPM)の結果
APNIC Open Policy Meeting(OPM)では、IPアドレスやAS番号などのインターネット番号資源に関するポリシーが議論されました。今回取り上げられた7件の提案の結果は、以下の通りです。
| 提案 | 内容 | 結果 |
|---|---|---|
| prop-169 | LIRに対するIPv4アドレスニーズ評価の見直し | コンセンサスに到達 |
| prop-170 | ニブルバウンダリを適用したIPv6アドレスの割り振り | コンセンサスに到達 |
| prop-164 | IPv6最小割り振りサイズの変更 | コンセンサスに至らず、MLで継続議論 |
| prop-168 | IPv4アドレスの最大割り振りサイズ拡張 | コンセンサスに至らず、MLで継続議論 |
| prop-171 | 再割り振りされたIPアドレスのabuse対応責任の明確化 | コンセンサスに至らず、MLで継続議論 |
| prop-165 | IPv6ネットワークへの移行を目的としたIPv4アドレスの割り振り | コンセンサス確認を実施せず |
| prop-172 | IPアドレスを通じたインターネット不正利用の定義 | コンセンサス確認を実施せず |
各提案の内容や背景は、事前に公開したJPNICブログ記事「APNIC 62でのIPアドレス・AS番号分配ポリシーに関する提案のご紹介」をご覧ください。会議の結果は、APNIC 62公式報告でも確認できるほか、当日の議論を含めた詳細な結果は、JPNICメルマガでもお知らせする予定です。
JPNICの取り組み
NRO NCでの活動への感謝
NRO(Number Resource Organization)のNumber Council(NC)のメンバーとしての貢献に対する感謝の印として、当センターの前村に記念品が授与されました。
NRO NCは、APNICをはじめとする世界の五つの地域インターネットレジストリ(RIR)から各3名、計15名で構成され、ICANNのASO Address Council(ASO AC)としての役割も担っています。さらには、ICANNが運営するIANA(Internet Assigned Numbers Authority) におけるインターネット番号資源(IPアドレスなど)に関するポリシーの策定のほか、一部のICANN理事、指名委員会委員の指名などに関わっています。
今回の記念品授与は、当センターの前村を含むNRO NCが2023年10月から取り組んできた新RIR設立認定要件文書、ICP-2(Internet Coordination Policy 2) の改定作業が完了したことを受けてのものでした。
Routing Security SIGの運営への貢献
当センターの木村は、Routing Security SIGの共同議長(Co-Chair)として、ルーティングセキュリティに関する情報共有や議論の場の運営に携わりました。同SIGでは、RPKIの最新動向や、ASパスの検証に向けたASPAなどが取り上げられました。また、今回実施された選挙で木村は共同議長に再選され、引き続き同SIGの活動を支えていくこととなりました。
Routing Security SIGの共同議長を務めた木村(APNIC flickr より)
APNIC62参加支援プログラム
国際会議参加支援プログラムは、国際会議への参加を希望する国内の若手技術者・研究者に対して支援を行うことを目的として、JPNICが実施しているプログラムです。
今回は、APNIC62参加支援プログラムとして、APNIC62への旅費等の支援や、事前意見交換などを2名の方に行いました。参加された方からは「多くの方と積極的に交流ができた。この経験を今後に活かしていきたい」などの前向きなコメントも頂きました。
JPNICは、国際的な舞台で活躍する未来の技術者を育むことを目指し、今後とも活動を継続してまいります。
(ご協賛も随時募集中です。詳しくはこちらをご覧ください。)
おわりに ~次回は香港で~
今回取り上げた各セッションでは、技術の導入だけでなく、それを運用する人々の経験共有や連携の重要性が示されていました。IPv6への移行、障害への備え、コミュニティの運営と、扱うテーマは異なりますが、他の国・地域の取り組みから学べることは少なくありません。JPNICでは、引き続きこうした場での情報交換を通じて、国内外のコミュニティとの連携を進めてまいります。
次回のAPNICカンファレンスとなるAPNIC 63は、2027年2月24日~3月4日に香港で開催される「APRICOT 2027」と同時に行われる予定です。会場内にも次回開催を案内するバナーが掲示されていました。技術を学ぶとともに、アジア太平洋地域の運用者やコミュニティと交流する機会として、参加を検討してみてはいかがでしょうか。










