APNIC 62カンファレンス報告全体概要およびアドレスポリシー関連報告
ip_team IPアドレス 他組織のイベントAPNIC 62カンファレンス(以下、APNIC 62)が2026年9月4日(金)~9月10日(木)にかけて、インド・ムンバイで開催されました。本稿では、APNIC 62の開催概要と、アドレスポリシーに関する議論の動向についてご紹介します。
APNIC 62開催概要
APNIC 62では9月4日(金)~9月6日(日)をワークショップウィークとして、ネットワーク自動化やセキュリティなどをテーマとしたワークショップを行い、9月7日(月)はAPIX、AP Starなどの関連イベントを、9月8日(火)~10日(木)の3日間は議論の場となるカンファレンスウィークを行いました。
カンファレンスウィークでは、アドレスポリシーやルーティングセキュリティ、NIR (National Internet Registry; 国別インターネットレジストリ)、社会的課題など特定分野に関心を持つ人達が議論を行う「SIG (Special Interest Group)」や、カンファレンスの総括および全体報告が行われる「AMM (APNIC Member Meeting)」、その他各種技術に関する講演等が開催されました。
主催者報告によると、今回のAPNIC 62では世界54の国と地域から、オンサイトで500名が参加しました。昨年、2025年の単独開催となるAPNIC 60(ベトナム・ダナン)が約450名であり、回を追うごとに参加者数は増えてきているように思われます。
会期中のセッションについては、動画、資料および発言録がWebで公開されています。もし興味のある内容がありましたらぜひご確認ください。
- APNIC 62プログラム
- https://conference.apnic.net/62/program/
選挙結果のご紹介
APNIC 62では、NRO NC (The Number Resource Organization Number Council)を選出する選挙が行われました。
NRO NCは、ICANN理事会がグローバルポリシーを承認する上で、アドバイスを行う役割を担います。コミュニティでの選挙により選出された2名と、RIR (Regional Internet Registry; 地域インターネットレジストリ)の理事会が指名する1名の合計3名を、各RIR地域の代表者としています。五つのRIRから選出された合計15名で、NRO NCを構成しています。
今回は、Nicole T. I Chan氏(台湾)の任期満了に伴い、選挙が行われました。今回の選挙では現職のNicole氏に加え、南アジア地域のNOGで活躍されるバングラデシュのGazi Zehadul Kabir氏が立候補しました。他1名を加え3名で争われた今回の選挙ではGazi Zehadul Kabir氏が当選を果たしました。Gazi氏の任期は、2027年1月~2028年12月の2年間となります。
この他、各SIGのコチェア選挙も併せて行われました。Routing Security SIGではJPNICの木村泰司がコチェアへの再選を果たしています。
ICP-2の見直しについて
2023年からNRO NC/ASO ACでは、新たなRIRの設立・承認要件を定める文書である、ICP-2 (Internet Coordination Policy-2)の改定作業が行われてきました。今回のAPNIC 62の直前となる2026年9月1日、ASO AC Recommended Draftが公開されました。これによりNRO NC/ASO ACでの作業は一区切りとなり、NROおよびICANNでの意見募集および承認・採択プロセスへ進んでいくこととなります。
今回の変更にあたり、どのような「原則」が含まれるのかはJPNICブログでご紹介しております。ぜひご参照ください。
- ICP-2 新RIR設立要件の改定作業:「原則案」に対する意見募集が始まりました。(和訳付き)
- https://blog.nic.ad.jp/2024/10159/
また、APNIC 62内では、”ICP-2 Review (RIR Governance Document)”セッションでRecommended Draftでどのような変更が行われたか説明されています。より詳細な確認をしたい方はこちらの資料も併せて確認ください。
- ICP-2 Review (RIR Governance Document)
- https://conference.apnic.net/62/program/program/index.html#/day/6/289/
オープンポリシーミーティング(OPM、ポリシーSIG)での議論とその結果
今回のAPNIC 62では、7件のポリシー提案について議論が行われました。提案募集期間にはこれを越える提案提出がありましたが、OPMの時間制約上、議論できる提案に限りがあるということで今回は7件となり、残る提案は次回のOPMでの議論となりました。
コンセンサス形成の意思表示は、参加者の挙手で行います。オンラインからの意思表明としてはZoom Pollが採用されています。ポリシーSIGチェアはこれらの様子を総合的に判断し、ポリシー提案がコンセンサスを得ているかどうか、判断します。
以下では、ポリシー提案の議論結果についてご紹介します。提案の内容や事前情報に関しては、JPNIC Blogにまとめていますので併せてご確認ください。また、IP-USERSメーリングリストでは、カンファレンス開始前にJPOPF運営チームによって、日本語での提案紹介および意見募集が行われています。今後の動向把握には、IP-USERSメーリングリストの登録をぜひお願いします。
- APNIC 62でのIPアドレス・AS番号分配ポリシーに関する提案のご紹介
- https://blog.nic.ad.jp/2026/12095/
- IP-USERSメーリングリスト
- https://www.nic.ad.jp/ja/profile/ml/mailman.html#join-ip-users
prop-164:「IPv6最小割り振りサイズの変更」
- 提案者:
- Christopher Hawker氏、Luke Thompson氏
https://www.apnic.net/community/policy/proposals/prop-164/ - 概要:
- IPv6アドレスの最小割り振りサイズを現在の/32から/40へ変更する。 また、既に/32の割り振りを受けているアカウントホルダーについては/40までの縮小を可能とし、 将来の拡張を考慮した/28単位でのスパースアロケーションや、 ニブルバウンダリ(4bit)に沿った割り振りを行う。
- 結果:
- コンセンサスに至らず
APNIC 60から継続議論となっていた提案です。
本提案は、IPv6アドレスの最小割り振りサイズを現在の/32から/40へ変更するとともに、既に/32の割り振りを受けたアカウントホルダーのサイズ縮小、スパースアロケーション、ニブルバウンダリに沿った割り振りなど、IPv6アドレスの割り振り方法を複数の観点から変更するものです。提案者はこの変更により、データベース上の情報の正確性を改善できると主張しています。
会場からは、一つの提案に多くの変更が含まれているため、それぞれを分けて検討できないかとの意見が挙がりました。これに対して提案者は、それぞれが相互に連動する課題であるとの考えを示しました。また、変更内容が多岐にわたることによるAPNIC事務局の実装・運用負担や、最小割り振りサイズの変更による料金への影響についても質問がありました。一方、現行の最小割り振りサイズがなぜ/32なのかといった、現在の制度の考え方そのものについてはあまり議論されませんでした。
コンセンサス確認では賛成・反対の双方が見られましたが、チェアはコンセンサスには至っていないと判断しました。しかし、提案者から再度コンセンサス確認を行うべきとの主張があり、2度目のコンセンサス確認が行われましたが判断は変わらず、コンセンサスには至らずで終了しています。
prop-165:「IPv6ネットワークへの移行を目的としたIPv4アドレスの割り振り」
- 提案者:
- 藤崎 智宏氏、川端 宏生氏
https://www.apnic.net/community/policy/proposals/prop-165/ - 概要:
- IPv6-onlyネットワークを構築する組織に対し、 DNSやメールなど重要なサービスのIPv6への移行が完了するまでの過渡期の対応として、 IPv4アドレス/24を割り振る。 割り振られたIPv4アドレスの移転や再割り当ては認めず、 APNICがIPv6導入支援という目的に沿って利用されているか確認する。
- 結果:
- コンセンサス確認なし
APNIC 60から継続議論となっていた提案です。
IPv6-onlyネットワークを構築する際、IPv6の取得基準は満たしていてもIPv4の取得基準を満たせず、移行期に必要となるIPv4アドレスを確保できない可能性があります。本提案は、このような組織に対して移行用途として/24のIPv4アドレスを割り振る仕組みを設けるものです。
会場では、IPv6-onlyネットワークの実装を支援するものとして複数の支持がありました。また、割り振られたIPv4アドレスがIPv6移行という目的に沿って利用されているかについて、APNICが現在モニタリングしているデータを活用することで、ある程度確認できるのではないかとの意見もありました。
一方、制度の終了条件をECの判断に委ねるのではなくポリシー上で明確に規定すべきとの意見や、日本やインドでもIPv6-onlyを前提とした申請がほとんど見られない中、この仕組みが実際に広く利用されるのかを疑問視する声もありました。
本提案は2026年8月27日にVer.4が公開されましたが、このバージョンに対するAPNIC事務局の影響評価がOPMまでに間に合わなかったため、今回はコンセンサス確認を行わず、継続議論となりました。
prop-168:「IPv4アドレスの最大割り振りサイズ拡張」
- 提案者:
- Christopher Hawker氏
https://www.apnic.net/community/policy/proposals/prop-168/ - 概要:
- IPv4アドレスの最大割り振りサイズを/23から/22へ拡張する。 既存の契約組織も保有するIPv4アドレスの合計が/22未満であれば追加申請を可能とする。 移転によってアドレスを放出した組織は対象外とする。 また追加割り振り後5年間は割り振り済みアドレスの移転を禁止とする。
- 結果:
- コンセンサスに至らず
APNIC 61から継続議論となっていた提案です。
本提案は、APNICから受けられるIPv4アドレスの最大サイズを現在の/23から/22へ拡張するものです。また、IPv4在庫が枯渇した場合に備えて/12をIPv6移行用途として確保する仕組みも含まれています。提案者は、現在の分配ペースでは在庫の完全枯渇は2035年前後になると見込んでおり、長期間にわたりレジストリにストックしておくよりも、現在IPv4アドレスを必要とする組織に分配することが重要であると主張しています。
議論では、/23では不足する具体的な背景としてIPv4アドレスのリースが行われている現状が挙げられました。参加者からも、既に/23を使い切っており、新たなPoP (Point of Presence、接続拠点)を開設するには市場からIPv4アドレスを調達するしかないという声がありました。
一方、IPv4在庫の枯渇を加速させることや、新規参入者との公平性を懸念する声も多く挙がりました。特に、本提案は実装に約9か月を要し、その後、需要次第では約3か月で在庫が枯渇する可能性が示され、提案内容の調整が必要ではないかとの指摘がありました。
また、追加割り振りを単なるIPv4ネットワークの拡張ではなく、IPv6の実装・移行と関連付けるべきとの意見もありました。
コンセンサス確認では反対や中立が多く、チェアはコンセンサスには至っていないと判断しました。
prop-169:「LIRに対するIPv4アドレスニーズ評価の見直し」
- 提案者:
- Saima Nisar氏
https://www.apnic.net/community/policy/proposals/prop-169/ - 概要:
- IPv4アドレスの必要性確認に関するポリシー文言を、 現在の割り振り運用と整合するよう修正する。
- 結果:
- コンセンサス
現行ポリシーでは、申請者に「1年以内に少なくとも/23を使用するための計画」を求めていますが、現在は/24の割り振りが行われる場合もあるため、実際の運用とポリシー文書の間に矛盾が生じています。本提案は、この文言を「審査対象となるIPv4割り振りを1年以内に使用するための詳細な計画」とすることで、矛盾を解消するものです。
現在の運用とポリシー文書の整合性を取る変更であることから、会場では大きな反対意見は見られませんでした。コンセンサス確認でも賛成が多く、コンセンサスに至りました。
prop-170:「ニブルバウンダリを適用したIPv6アドレスの割り振り」
- 提案者:
- Haisheng Yu氏、Haijun Li氏
https://www.apnic.net/community/policy/proposals/prop-170/ - 概要:
- 申請者が希望し、「長期的なIPv6アドレス計画」が確認された場合、 ニブルバウンダリに沿ったIPv6アドレスの割り振りを受けられるようにする。
- 結果:
- コンセンサス
本提案は、IPv6アドレスの可読性や運用性を考慮し、申請者が希望する場合にニブルバウンダリに沿ったプリフィクス長での割り振りを受けられる仕組みを設けるという提案です。
会場では、中国からの参加者を中心に、ニブルバウンダリに沿った割り振りによって運用効率が向上するとして複数の支持がありました。一方、既存ポリシーでも必要性を示すことで通常より大きなIPv6アドレスの割り振りを受けられるため、新たな仕組みによって何が解決されるのか不明確との指摘もありました。また、組織内部のアドレス設計を/40などに合わせることで解決できるのではないかとの意見もありました。
どのような理由でニブルバウンダリへの割り振りを正当化できるかについては、運用、reverse DNS、ルーティング、セキュリティなどを理由として提示し、それが十分かどうかはAPNIC事務局が判断するとの説明がありました。
コンセンサス確認では賛成や中立が多く、反対も一部見られましたが、議論全体を踏まえ、チェアはコンセンサスに至ったと判断しました。
prop-171:「再割り振りされたIPアドレスのabuse対応責任の明確化」
- 提案者:
- Tsung-Yi Yu氏、Alban Kwan氏
https://www.apnic.net/community/policy/proposals/prop-171/ - 概要:
- 下位組織へIPアドレスを再割り振りする場合、 上位組織が適切なabuse窓口を確保し、 正当なabuseレポートが実際に運用上の責任を負う当事者まで届くことを保証する。
- 結果:
- コンセンサスに至らず
本提案は、再割り振りされたIPアドレスでabuseが発生した際、適切な担当者まで連絡が届く仕組みを確保することを上位のリソースホルダーに求めるものです。具体的には、下位組織自身によるabuse contactの運用、上位組織による集中管理、その他確実に担当者へレポートを届けられる方法のいずれかの体制を構築することを求めています。
会場からは、再割り振り先のabuse連絡先に問題があった場合、上位リソースホルダーのアカウントがロックされるなどの影響が生じる一方で、問題の原因となった下位組織には直接的なデメリットがなく、関係のない上流組織の他の顧客に影響が及ぶ可能性が指摘されました。
また、実効性を左右する具体的な実装方法を今後ガイドラインとして策定するとしていることから、その内容が決まっていない段階でポリシー上のゴールを先に定めることへの懸念も示されました。
コンセンサス確認では中立・反対が多く、コンセンサスには至りませんでした。
prop-172:「IPアドレスを通じたインターネット不正利用の定義」
- 提案者:
- Alban Kwan氏
https://www.apnic.net/community/policy/proposals/prop-172/ - 概要:
- アドレスポリシーにおける「IPアドレスにおけるインターネットabuse」を定義する。
- 結果:
- コンセンサス確認なし
本提案は、マルウェアの配布・ホスティング、DDoS、BGPハイジャックなどのルーティングレイヤでのabuse、IPアドレスの不正取得・移転・再分配、フィッシングや詐欺に利用されるインフラのホスティングなどを例として挙げ、アドレスポリシー上の「abuse」を定義しようとするものです。また、abuseの判断者はリソースホルダーであり、APNICにはその裁定権限を持たせないとしています。
議論では、単にabuseを定義するだけでなく、「abuseと判断するために必要な証拠」についても検討すべきとの指摘がありました。特に動的に割り当てられるIPアドレスについては、特定時刻の技術的証拠に基づいてabuse活動が観測された、とする方が正確ではないかとの意見がありました。
また、将来的にリソースホルダーへ対応責任を求めるのであれば、APNIC自身がabuseを判断するのではなく、十分な技術的証拠のあるレポートに対してリソースホルダーが適切に対応したかを確認する仕組みを用意すべきとの意見もありました。さらに、そもそもabuseの定義をRIRポリシーで行うべきなのか、IETFなど別の場で扱うべきではないかとの意見も示されました。
整理・検討すべき点がまだ多いとの認識が提案者・チェアから示されたため、今回はコンセンサス確認を行わず、継続議論となりました。
次回以降のAPNICカンファレンスについて
次回のAPRICOT 2027/APNIC 63は、2027年2月24日(水)~3月4日(木)に香港での開催が予定されています。
APNICカンファレンスは、APNICメンバー以外の方にも広く門戸を開いています。ポリシー動向はもちろん、世界での最新技術動向やトレンドトピック、国際連携・国際交流に関心をお持ちの方は、ぜひ一度参加されてみてはいかがでしょうか。英語でのカンファレンスですが、同時英語字幕等、初心者や非ネイティブスピーカーへの配慮もなされています。
JPNICでは学生・若手社会人を対象とした国際会議参加支援プログラムを行っております。今回のAPNIC 62でも2名のフェローシップを派遣しました。参加者の体験談・報告レポートを公開予定ですので、ぜひご確認ください。
- 国際会議参加支援プログラム
- https://www.nic.ad.jp/ja/intl/fellowship-program/
みなさまとAPNICカンファレンスの場でお会いできることを楽しみにしております。
