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デジタル協力に関する進捗

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はじめに

2019年6月に発行された国連「デジタル協力に関するハイレベルパネル報告書」、2020年5月に発行されたデジタル協力アーキテクチャー(勧告5A/B)の事後検証、2020年6月に国連事務総長により発行された「デジタル協力へのロードマップ」、と進められてきたデジタル協力に関する進捗をお伝えします。これまでの経緯の詳細については、ブログ記事[2020年2月][2020年7月]をご覧ください。

 

1.  オプションペーパー

正式名称は「グローバルなデジタル協力の未来に関する選択肢」です。ブログ記事7月号『「デジタル協力」関連の最新動向』の「4. 今後の予定」で予告した通り、ドイツおよびアラブ首長国連邦により、9月3日に国連事務総長に提出されました。両国は、デジタル協力のためのロードマップ(p.32)において、国連75周年記念式典に関する特別顧問室とともに国連デジタル協力に関するハイレベルパネル(HLPDC)報告書の勧告5A/B(グローバルなデジタル協力)、特にデジタル協力アーキテクチャーの「擁護者」に指名されており、Webサイトの記載より、両国政府(アラブ首長国連邦政府およびドイツ連邦外務省)が共同で執筆および世界中のステークホルダーに意見を求める作業を行ったと明記されています。本文書作成にあたって参考にされたと思われる、各ステークホルダーからのコメントはいずれも2020年2月から6月ごろに作成されたようで、各国政府だけでなくInternet Societyなどのインターネット関連団体や市民社会団体からのコメントもあります。

1.1. 主な内容

本文書中の主要な提案内容は次の通りです。

  1. インターネットガバナンスの既存の構造を維持し、かつアップグレードすべきである。2006年に国連によって設立された、インターネットを取り巻くすべての利害関係者のための中心的な議論のプラットフォームである、インターネットガバナンスフォーラム(IGF)を強化し、より包括的で効果的な形式(IGF+)に発展させることとする。
  2. 世界中のより多くのステークホルダーが、インターネットガバナンスに関する議論に参加できるようにする。参加は、専用の財政支援と中央の情報集積点によって促進されるべきである。
  3. IGFは、すでに行われている既存の議論を繋いで相乗効果を生み出すファシリテーターとなるべきである。
  4. IGFの結果は、行動指向ではあるが拘束力のない勧告や報告書として記録されなければならない。これにより、政策策定プロセスへの道筋を見出すことができるようになる。

IGF+がこれまでのIGFとどう違うのか、という点については、DiploFoundationによるIGF Plus Ecosystemという図がわかりやすいでしょう。1.に関しては、IGF+についてはIGF2019で広範な支持がすでに得られており、分散共同ガバナンス(CoGov)モデルおよびデジタルコモンズアーキテクチャー(DCA)についても多くの関係者が含めたいと思っているとしています。

特筆すべき点の一つは、国別・地域別インターネットガバナンスフォーラム(NRI)および若者IGFなど、地域ごと、国ごとのレベルでの支援について、新たな専属の機構の構築が必要となっており、具体的には専属の連絡係を置くべき、となっています。次に、IGFで議論した結果のアウトプット方法については、現状維持からRequest for Commentsまで、複数の案が併記されています。政策に関する議論と、意思決定組織体との連関構築については、マルチステークホルダーからなる政策インキュベーターの作成、意思決定組織体の構成員(各国議会などを想定していると思われます)が集まるセッションを開催するなど複数の案が併記されています。

基本的には国連の関与が増すということと、IGF Support Networkが追加されることのように見えますが、2.にもありますが、これらを実現するには資金が必要だということが、オプション10 「適切な資金調達」に記載されています。その中には複数の案が記載されており、常設の寄付集め機構を作る、会費制とし途上国や小規模市民社会グループは会費を免除する、国連からの資金提供を増大させる、などの可能性を列挙するにとどまっています。

1.2. 今後

オプションペーパー中には今後の予定については書かれていませんが、オプションペーパーがカバーした上記1.に関連した、HLPDC報告書の勧告5A/Bに関する市民の対話イベントが2020年10月10日(土)10時~18時中部欧州時間(同日17時~翌11日(日)1時日本時間)にオンラインで開催されます。また、デジタル協力ロードマップおよびオプションペーパーのスケジュールによれば、国連加盟国および各ステークホルダーに対しデジタル協力の強化に関する作業を継続するため、扉は開かれたままであるとなっています。

次に、オプションペーパーで示されたオプションを絞り込む作業が必要と思われますが、それをどのように行うのかは本稿執筆時点では不明で、IGF2020でどのような議論が行われるかが注目されます。

 

2. 第75回国連総会首脳レベル週間におけるデジタル協力イベント

2.1. 経緯・位置づけ

2020年9月23日に「デジタル協力:未来の世代のための今日の行動」と名付けられた国連のイベントがオンラインで開催されました。主催はユニセフGeneration Unlimited国際電気通信連合(ITU)UNDP国連75周年記念式典に関する特別顧問室となっています。本イベントがメインイベントという扱いで、前後して関連イベントが多数開催されました。この週(2020年9月22~26日)は第75回国連総会の一般討論にあたり、菅首相の一般演説は25日に行われました。

前回7月号ブログ記事で、HLPDC事後作業タイムラインによれば、2020年7月から9月にかけて国連総会向けの準備を行う、となっており、それに該当したのではないかと思われます。

新型コロナウィルス感染症(COVID-19)流行中ということで、登壇者はすべてオンラインによる参加でした。首脳レベル(High-level)ということで、登壇者の中には王族や大統領、首相も見受けられ、日本からも現役の大臣が参加しました。

2.2. プログラム

大きく分けて、以下の4つの区分が設けられました。[原文]

  • 開会部分(Opening Segment)
  • 接続: 2030年までに普遍的で全地球的な接続性への資金提供(Connect: Financing Universal Global Connectivity by 2030)
  • 尊重: デジタル時代における人権と能力強化の実現(Respect: Realizing Human Rights and Empowerment in the Digital Age)
  • デジタル時代の人々の保護: サイバー脅威と子供のオンライン上の危害との闘い(Protect the Digital Age: Combatting Cyber threats and Child Online Harms)

2.2.1. 開会部分

国連75周年記念式典に関する特別顧問であるFabrizio Hochschild氏が開会挨拶をしたのち、国連事務総長António Guterres氏がスピーチを行いました。主な内容は、どのような世界を次の世代に残したいのか、という質問と、我々の挑戦は、デジタル技術を利用することで、物事を可能にし平等にすること、および持続可能な開発目標(SDG)の達成の加速により世界に貢献することである、ということでした。最後にデジタル協力に関するロードマップ中で、すべての人々を接続、尊敬、保護するよう要求したとし、すべてのステークホルダーがロードマップを進展させることを期待している、と述べました。

HLPDC共同議長であるJack Ma氏もスピーチを行い、デジタル技術の潜在力、教育を工業化時代から情報化時代に合わせて変える必要性などについて言及しました。

2.2.2. 接続: 2030年までに普遍的で全地球的な接続性への資金提供

本セッションでは、エチオピア大統領Sahle-Work Zewde氏、ルワンダの情報通信技術&イノベーション大臣Paula Ingabire氏、WWWの作者Tim Berners-Lee氏などが登壇し、ITU-DのDoreen Bogdan-Marting氏がモデレーターを務めました。モデレーターより、ユニバーサルな接続性がなぜ必要なのか、接続性に関して各国でどのような施策がなされているのか、インターネット接続性に関する若者のニーズはどうなのか、などの質問が登壇者ごとにカスタマイズされて投げかけられ、登壇者がそれに答えるというスタイルで進められました。プライベートセクターが何ができるか、電気通信業界にはどのようなイノベーションが必要とされるのか、などの質問が先進国からの参加者には投げかけられ、途上国における接続性向上のための資金調達についてもコメントがありました。

本セッションでは、バングラデシュ大統領Sheikh Hasina氏、Ericsson、Googleなどより事前録画されたと思われるステートメントが寄せられています。

2.2.3. 尊重: デジタル時代における人権と能力強化の実現

Red | For AfricaのAdebola Williams氏がモデレーターを務め、COVID-19下で国際コミュニティは人権を守るために何をすべきか、などの問いかけがなされ、スイス大統領Simonetta Sommaruga氏、ボーダフォングループ社長Nick Read氏、国連表現の自由に関する特別報告者(Special Rapporteur on Freedom of Expression) Irene Khan氏、国連事務総長の若者に関する特使(Secretary-General’s Envoy on Youth) Jayathma Wickramanayake氏がそれぞれ答えるという形で進められました。

本セッションでは、ノルウェー首相Erna Solberg氏、FacebookのSheryl Sandberg氏、富士通株式会社代表取締役社長 時田 隆仁氏などによる、録画スピーチが寄せられています。

2.2.4. デジタル時代の人々の保護: サイバー脅威と子供のオンライン上の危害との闘い

Observer Research Foundation理事長Samir Saran氏がモデレーターを務め、スウェーデンのシルヴィア王妃、コスタリカ副大統領Epsy Campbell Barr氏、マイクロソフト社長のBrad Smith氏などが参加して、デジタル協力とセキュリティ、デジタル技術がもたらす恩恵と副作用、COVID-19後の回復に際して、よりよいデジタルの未来を作ることができるか、信頼と信用を増大し未来がより回復力を持つものになるか、などについて考えが各登壇者より述べられました。

本セッションでは、ニュージーランドのJacinda Ardern首相、ITU事務局長Houlin Zhao氏、日本からは武田 良太 総務大臣などによる、事前録画されたスピーチが寄せられました。武田総務大臣のスピーチの概要は次の通りです。

COVID-19の挑戦に立ち向かうため、すべての人にインターネットアクセスが保証されるべきであり、社会と経済の健全な発展のため、5GやAIなどの新興技術によるデジタル変容の促進が必要不可欠です。これからの社会にはデジタルスキルを持った若者の育成が不可欠であり、日本は技術協力や留学プログラムを通じた国際貢献を今後も継続します。すべての人がデジタル社会に参加するためには、個人情報保護などが喫緊の課題であり、「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)」を推進し、自由で開かれ信頼性のある、「一つのインターネット」を維持する必要があります。2023年のIGFホスト国として、日本はインクルーシブで信頼性のある社会の実現に向けた努力を継続します。

 

3. 国連75周年報告書

2020年1月以来加盟国およびオブザーバー国より、アンケートや対話などの形で集められた内容をまとめ、同年9月5日に発行された報告書です。デジタル協力についてはAnnex #2 Research Mappingに関連論文一覧(p.137)があるだけで、詳細な記述はありませんが、2020年後半により詳細な文書を発行予定とのことです。

 

4. 考察

デジタル協力関連について、国連75周年に合わせオプションペーパーの公開、イベント開催など華々しく進められてきました。幅を持ったオプションが提示されたことで、あとはその中から絞り込めばよいことになりますが、これによって何が実現するのか、というビジョンの提示は今一つという面が否めません。そこが解決されれば、現行のIGFの開催を定めた期限である2025年より先へのIGFの期限延長ならびに情報社会におけるさまざまな問題解決へとつなげることができるのではないかと考えます。