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2021年のIPアドレス・AS番号分配ポリシーを振り返る

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インターネット番号資源管理において、世界を五つの地域に分割して管理を行う地域インターネットレジストリ(RIR; Regional Internet Registry)では、それぞれの地域で管理におけるルール(ポリシー)策定が行われています。各RIRで年に2回、議論を行うためのカンファレンスが設けられています。本ブログ記事では、私たちが属する地域である、アジア太平洋地域を担当するAPNIC (Asia-Pacific Network Information Centre)でのポリシー議論の動向はもちろんのこと、APNICでの議論に波及することも度々みられる、北米とカリブ海地域を担当するARIN (American Registry for Internet Numbers)、ヨーロッパおよび中東地域を担当するRIPE NCC (Reseaux IP Europeens Network Coordination Centre)のポリシー議論についてもカンファレンスが開催されるごとに情報共有を行っております。

APNIC (Asia-Pacific Network Information Centre)

ARIN (American Registry for Internet Numbers)

RIPE NCC (Reseaux IP Europeens Network Coordination Centre)

これらの他に、南米を担当するLACNIC (Latin American and Caribbean Internet Address Registry)、アフリカを担当するAFRINIC (The African Network Information Centre)でも、同様にポリシーに関する議論が行われています。

2021年は2020年に引き続き、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を考慮し、ほとんどのカンファレンスがオンライン開催のみとなりました。

以下で、2021年に行われた注目すべきポリシー議論について振り返っていきたいと思います。


APNICの注目動向

APNICでは現在、2019年に施行された「prop-127:Change maximum delegation size of 103/8 IPv4 address pool to a /23 (最後の/8相当のIPv4未割り振り在庫(103/8)からの最大割り振りサイズを/23へ変更する提案)」により、最後の/8相当のIPv4未割り振り在庫(103/8)からの最大分配サイズは/23 (512アドレス)となっています。

ここに対して2021年9月に開催されたAPNIC 52カンファレンス(以下、APNIC 52)で「prop-141: Change maximum delegation size of IPv4 address from 512 ( /23 ) to 768 (/23+/24) addresses (IPv4アドレスの最大割り振りサイズの/23から/23+/24への変更)」が提案されました。提案者は、現行の分配ペースだと、完全枯渇は2027年8月~9月と予測しています。提案者は、この分配ペースは時間をかけすぎている(そんなにいつまでもIPv4アドレスを分配する必要はない)と主張し、今必要としている組織に配るべきであるとしました。本提案では、最後の/8相当のIPv4未割り振り在庫(103/8)からの最大分配サイズを/23+/24 (768アドレス)に変更し、2019年以降に/23の割り振りを受けた事業者も、追加で/24の割り振りを受けることができるようにするとしています。また、ステージを設定し、IPv4アドレスの在庫量が規定数を下回った場合はステージが進み、応じて最大分配サイズを小さくするという提案でした。

議論の中では一定数の賛同を得た本提案でしたが、ステージ移行の仕組みについて、ステージは不可逆ではないものとしました。APNICでは未利用のIPv4アドレスの回収を行っていますが、この回収される数が多く、割り振りが行われた数が少ないと一時的に在庫量は増えることになります。もしも在庫数が基準値周辺にある場合、一時的にステージ2へ上がり、すぐに割り振りが行われステージ3へ戻る等、RIR/NIRのオペレーションに過度な負担をかけることが懸念として挙げられました。

(JPOPM41 APNIC updateより引用)

結果APNIC 52ではコンセンサスには至らず、継続議論となっています。2022年のカンファレンスでも議題に挙がってくるかと思いますので、注目しておく必要があると考えています。

ARINの注目動向

ARINでは待機リストに並んで順番待ちをするシステムを採用し、APNICとは異なる方式でIPv4アドレスの分配を行っています。このため、ARINでは待機リスト制度に関わるポリシー提案が多くされています。既に施行済みである「ARIN-2019-16: Advisory Council Recommendation Regarding NRPM 4.1.8. Unmet Requests」では待機リストの最大割り振りサイズを/22とし、/20以上のアドレスホルダーは受取資格がないとして待機リストから削除されました。

しかし、「ARIN-2020-2: Reinstatement of Organizations Removed from Waitlist by Implementation of ARIN-2019-16 (IPv4アドレス割り振り待機者リストから削除された組織の復帰)」ではここで待機リストに並んでいた組織が削除されるのは公平性に欠く行為であり、復活するように前の提案を覆す提案が行われました。

カンファレンスではコンセンサスに至り、ラストコールまで行った本提案ですが、この段階においても多くの組織に分配するためには必要なことであると考える本提案反対派の声は、非常に大きくなっていました。そこでラストコールの承認を行うAdvisory Council (AC)はこれを受け、PDPで定められた60日間のうちに理事会承認へプロセスを進めることなく、再度ドラフトポリシーへステータスを戻すことにしました。対して、賛成派とする人々は、ARINのPolicy Development Process (PDP)に存在する異議申し立てのプロセスを行いました。5日間のうちに25の異なる組織に属する人物から異議申し立ての意思表明をメーリングリストで表す必要がありましたが、今回、この意思表明が25名以上確認され、プロセスはARIN理事会での承認へと進められ実装(待機リストへの復活)となりました。

議論が紛糾した本提案は、これまでのポリシー提案の中でもかなりイレギュラーな決着を迎えました。

待機リストの運用については、ペーパーカンパニーなどを利用したアドレスの不正取得も確認されています。先日には不正取得者のアメリカ連邦裁判所での有罪確定が報じられ、法的措置を実際に講じることができる姿を示しましたが、より厳正な運用を求められ、それに伴うポリシー提案が行われることも考えられます。

RIPE NCCの注目動向

RIPE NCCではカンファレンスでのポリシー提案・議論自体は見られなかったものの、メーリングリスト上で活発な議論が行われていました。特に年末にかけて盛り上がりを見せていたのは、ARINと同じく待機リストに関する話題でした。

RIPE NCCでは在庫の完全枯渇を迎えており、現在はARINと同じく待機リストに登録してもらい、返却されたアドレスなどから分配を行っています。RIPE NCCではLIR(Local Internet registry)アカウントを作成し、アドレスの分配を受けます。LIRアカウントは1組織に1つしか作成できないわけではなく、LIR fee (≒JPNICのIPアドレス維持料にあたる料金、1アカウントあたりで価格固定)を支払えば、複数のアカウントを作成することができます。この制度を悪用し、複数のLIRアカウントを駆使して待機リストからアドレスを入手し、IPv4アドレス移転市場でお金を稼ごうとする組織が出てきているようです。

対策として、移転制度自体の廃止や待機アドレスからの割り振りアドレスの移転禁止(遡及適用)、以降に割振られるアドレスの移転禁止等、かなり強い方策を唱える人も出てきています。一方で、これらのやり方は新規参入者から見ればアンフェアな手法であるので、料金制度の改訂(保有アドレス数に応じた従量制)やアドレス割振り後の移転禁止期間の設定(現在は24ヵ月であるが短いため、60ヵ月に)などが別案として出ていました。現在も議論は続いているため、次回以降のRIPEカンファレンスでどのような方向に進んでいくのか注目して見ていきたいと思います。


これらのポリシー議論に関しては、2022年も引き続き話題に上がってくるものであると思います。APNICやJPNICでも、IPv4アドレスの完全枯渇後はどのような運用になり、どういった対策が必要なのか考えておいた方が良いのかもしれません。次回APNICカンファレンスは2/21-3/3、フルオンラインでの開催が決定しています。prop-141 (割り振りサイズの変更)に関する議論はおそらく行われるかと思いますので、参加してみてはいかがでしょうか。RIRのオンラインカンファレンスは、誰でも無料で参加することができます。馴染みがない方にとっては今がチャンスですので、ぜひ参加登録してみてください。

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